地の棺(完)
わたしの言葉に、快さんがはっとした顔で壁を見上げた。

そう。

左側の壁にかかっていたはずの枝垂桜の押し花。

それがどこにも見当たらない。


「一体どこに……」


「蜜花さんと椿さんがいなくなったことと関係しているかもしれませんね」


押し花が?


「蜜花さん」


名前を呼ばれ神原さんを見ると、彼は泣き出しそうな笑顔で、わたしを見ていた。


「ひどいことを言っているとわかって敢えて言います。

頑張ってください。

耳を塞ぎたくなることも、目を背けたくなることもあるでしょう。
でもあなたならその本質を知ることができるはず。

柚子さんの妹だから」


そういうと、再び振り向くこともなく部屋を出て行ってしまった。



部屋に残ったのは、快さんと初ちゃん、そしてわたし。

初ちゃんは目をあわせようもせず、快さんは下唇を噛み俯いている。


シゲさんは姉が送ってきた鍵がどこのものかわかったんだろうか。

詳しいことはなにも聞けなかった。

あの鍵がヒントだと、椿さんにそういわれていたのに渡してよかったのかもわからない。

でも、今はっきりしているのは、わたしはもっと知らなければいけないんだということ。

快さんの目の前に移動したわたしは、冷静になるために、口から大きく息を吸い込んだ。


「快さん。シゲさんの話は本当ですか?」


快さんはびくっと肩を震わせたが、縦に首を振る。


「みんな知ってたんですか?」


「……いいや。知らされたのは柚子ちゃんが死んだ後だった」


死んだ後。

桔梗さんはどう思っていたのか。

なんでそんな事がまかり通っていたのか。

気になることばかりだった。
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