地の棺(完)
快さんの言葉の端端にやるせない想いが感じられ、話すたびに彼の心の傷を露わにしていくようだった。


「一年後、綾子さんが見つかった時、彼女は以前の彼女ではなくなっていた。

綾子さんの家族が引き取りを拒否したとかで、この屋敷で良くなるまで静養させるといってたけど、一か月後、療養施設に入ることが決まったとかで、彼女の姿はそれっきり見かけることがなくなったんだ。

実際、どうなったのかもよくわからない。

真実を知ったのは柚ちゃんと椿がここに住むことになった時だった」


『真実』という言葉にドキッとする。

自然と握りしめた手に力がこもった。


「両親に呼び出され部屋に行くと、そこには椿と柚ちゃん、そして雪と初がいた。
父が言ったんだよ。

『この屋敷で彼女達が暮らす条件として、お前達のものにしなさい』ってね。

信じられる?

その時の雪は八歳、初は七歳だよ」


住み始めた頃というと、九年前か。

姉が二十一歳の時だ。

同級生の椿さん、快さんも同じ。

まだ幼い二人は実の父親にそんなことを言われて、どう感じたのか。

初ちゃんを見ると、彼は目を背けずにわたしの目を見返した。

真剣な表情に心が、揺れる。


「雪は母のお気に入りでね。昔からよく言われてたんだよ。志摩家の長男は跡をとり、次男は生き神となる、ってさ。

母はそれを信じていた。

もちろん祖父母もそうで、父は跡取りとして厳しく、叔父の事は神としてもてはやして接してた。

それを知ってたから、彼女達のどちらかが雪とっていうのは選択肢として無理だと思った。

だから俺が柚ちゃんを、初が椿を選んだ」
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