地の棺(完)
なんで姉さんはそんなことを受け入れたんだろう。

そこまでして蝙蝠について調べたかったの?

わたしには理解できないよ。

俯くわたしに、快さんが慌てたように声をかける。


「あ、でも勘違いしないで。俺達は彼女達になにかしたわけじゃないから。
あくまで両親の手前、そうしたってだけで。

元々父は放任主義だし、母も雪の事しか目にない人だったからね。

両親も今までの習わしに従っただけって感じだったし、彼女達がここを出ていく日まで適当に話だけあわせてればいい、そう思ってたんだよ。

でもね、一緒にいる時間が長くなれば長くなるほど、彼女の事を知れば知るほど、惹かれていく自分がいたんだ」


「快さん……」


「先生もそうだったみたいだけどね」


そう言って快さんは声をたてて笑った。

その瞳は遠くを見つめたままで。


「そのうち彼女も俺の事を。誰かに想われることの幸せを教えてくれ、誰かを想うことの幸せを教えてくれた」


快さん。

あなたが姉さんの……


「ごめんね。ずっと黙ってて」


『いいえ』


頭の中でそう返事をして、首を横に振った。

喉の奥にこみあげる熱い塊があり、声を出したら泣きそうだったから。


「でも一年たった頃、彼女の様子がおかしくなったんだ。

急に島から出ていくと、そう言い始めて……」


快さんは俯き、両手で顔を覆った。

心の奥で渦巻く苦しみが伝わってくる。


「……柚ちゃんと俺は一緒になりたかった。
でもそれは許されなかった。
柚ちゃんと椿は、加岐馬島の土地神である『地の翼』の生き神である雪の供物とみなされていたから……」


「島民の協力がないと出ていくこともできない離島では、島民の言葉は絶対だった。

馬鹿みたいだよね。

そんなに大切な神様ならさ、島に住む人間こそが生贄にでもなんにでもなればいいじゃん。他所から来た人間を選ぶあたり、尋常じゃないんだよ」


初ちゃんが耐えかねたように言った。
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