地の棺(完)
「そうだね。でも俺達も同罪だよ。

島を裏切ることが怖かった。

閉鎖的な世界にいすぎたせいか、仕方がないのかも、なんて思ってたんだよ。

でも柚ちゃんはあきらめなかった。

そこを父に利用されて」


三雲さんの子供を妊娠した。

信じられない。

姉さんがそこまでするなんて。

好きな人のためだったから?

わたしは快さんから初ちゃんへ視線を移した。

初ちゃんの長いまつ毛が頬に影をつくり、赤い唇には強く噛みしめた跡がある。

靴ベラで固定された左手は痛々しくて、胸が疼いた。


「柚ちゃんに中絶を進めたのは多恵さんだったらしい」


「多恵さんが?」


明るい多恵さんの笑顔を思い出す。

多恵さんも知ってたんだ。

そう考えると、少し悲しかった。


「父は女癖が悪い人でね。綾子さんがいなくなった時も、彼女が父と関係していたことが原因だったんじゃないかと思うんだ。

加岐馬島に住むためには、生き神がいる志摩家の贄にならなければならない。

叔父は女性に関心を示す人じゃなかったから、父が自分のものにしたんだと思うんだ。

そして、その事を知った母によって、生贄の巣穴に落とされた」


桔梗さんが?


「そんな……」


「蜜花ちゃんはわかるはずだよ。母は自分のものに異常な執着をみせるんだ。
自分の夫の事ももちろん。それが綾子さんの意志ではなくても、父と関係したものを許せなかったんだ。

島の言い伝えを利用して綾子さんを亡き者にしようとした。

でも彼女は死肉を食らってでも生き残ったんだ。

その時の事があるから、柚ちゃんの妊娠は絶対に知られるわけにはいけなかった」

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