地の棺(完)
「快さんの子供だという可能性はなかったんですか?」


感じたことをそのまま聞いたのだが、快さんは悲しそうに首を振る。


「性的に破綻した父を持っておいてなんだけど、反面教師というのかな。
俺たちは手をつなぐのが精いっぱいの関係だったんだよ。

だからそれは絶対にないんだ。

柚子ちゃんは多恵さんの手助けを借りて、島から出ると実家に帰ろうとした。

でもその途中、事故にあって……」


その後の事は言われなくてもわかってる。

でも……姉の死後、妊娠していたという事実はわたし達家族が知ることはなかった。

医師が隠したんだろうか。


「快さん、わたし達は姉が妊娠していたということは知りませんでした。
事故の後、姉の体を検視してくださった先生からも伝えられることがなくて。

本当に妊娠していたんでしょうか」


「うん。間違いないと思う。
つわりっていうのかな、それらしい様子は何度か見ていたから」


「じゃあなんで……」


その時、事故の現場で居合わせた人を喰う少年のことを思い出した。

あの子はいったい誰だったのか、今も検討もつかない。


「快さん。『地の翼』ってなんですか?

わたしは姉の事故現場で……鬼のような少年に出会いました。

彼は姉とわたしの関係を知っていた。

そう、今ははっきりとわかります。

だから彼はわたしに姉の頭を見せたんです。

事故の日、あの場所にいた少年に心当たりはありませんか?」


わたしの問いかけに快さんの顔が曇った。

とても辛そうな瞳に、快さんがなにか隠してることを嗅ぎ取る。


「快さん、お願い」
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