地の棺(完)
快さんは初ちゃんを見た。

初ちゃんは驚いた顔で快さんを見返す。

そして快さんは口を開いた。


「『地の翼』とは加岐馬の土地神を表す蝙蝠のことだよ。

加岐馬には日本では珍しいチスイコウモリの一種がいてね。

血液を食料とする彼らの糞は粘着質で、加岐馬の土と混ざり合うことで養土となるんだ。

生贄という考えもこの蝙蝠の吸血行為からきたものだとおもう。

もしくは余所者を極端に受け入れない島民は、そういう大偽名分を盾にして、旅行者を地に還していたのかもしれない。

肉の交わりが吸血とみなされ、柚ちゃんと椿は俺たちに与えられたんだと、そう思うよ」


土地神が蝙蝠だったなんて。

日が暮れると目にするあの黒い生物が、神様として祀られ、そしてその生贄にされた姉。

なんて愚かなんだろう。

わたしは信仰を馬鹿にするつもりはない。

でも他人を犠牲にすることで成り立つものになんの意味があるのか。

快さんの話は続く。


「そして、蜜花ちゃんが言っていたその少年についてだけど……」


言葉途中で口を閉じた快さんはいつになく緊張した面持ちだった。


「多分……」


と、その時だった。

部屋に微かに香るミントの香りに気付く。


「ミント! 快さん、この匂いですっ」


立ち上がったわたしは鼻を両手で覆い隠した。

この匂いがした後、わたしは意識を失った。

ひょっとしたら催眠効果があるのかもしれない。

そう思ったから。

しかし、匂いはむせそうなほど強くなるのに、快さんも初ちゃんも不快そうに顔をしかめるだけ。


「やっぱりな」


そこに聞こえた男性の声。

それはとても意外な人物のものだった。
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