地の棺(完)
亘一さんと……雪君?


自分自身の耳が信じられなかった。

いや、信じたくなかった。

あれが亘一さんと雪君だって。


「嘘。だって、快さん……雪君は連れ去られて、わたしが見つけて……」


「いや。間違いないと思う。あの日、父に連れられて叔父と雪はどこかに出かけていた。

多分、柚ちゃんを連れ戻そうとしたんだろう。

先回りして福岡まで船で直接向かったんだと思う。

でもそのせいで事故現場に居合わせた。

そこで多分……」


「だって、だって快さん。

あの少年は……人を食べて……」


「食堂で叔父が千代子さんの死体になにをしたか覚えているかい?」


……覚えてる。

八年前なら、亘一さんは恐らく十一歳。

いや、でもじゃあ雪君はどこに……


「人を食べる少年として記憶しているのが亘一さんなら、じゃあ、雪君はいったいどこに……」


「柚ちゃんを君と引き合わえたのが、多分雪だと思う」


嫌だ。そんなの。

穏やかで優しい雪君の顔。

彼が……姉さんの首を抱いた少年だと?

だって、あの時、少年は笑ってた。

たくさんの人が死んでる中で、嬉しそうに、楽しそうに。

それは亘一さんのほう?

頭がズキズキと痛い。

もうなにがなんだか……

その時だった。

どこからかパンパンと軽く手を叩く音が聞こえた。

振り向くと、暗闇の中から人の足音が聞こえる。


「結局自分で思い出すことはできませんでしたね」
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