地の棺(完)
そういって雪君が鍵を唇にあてると、蝙蝠は一斉にシゲさんの体から離れた。

快さんと一緒に駆け寄ると、シゲさんは全身小さな噛み跡だらけで、白目を剥き、意識をなくしていた。


「雪君……あなたが本当に……」


「本当はこんな回りくどいことはしたくなかったんです。
だから僕はずっとあなたにヒントを与えました。

覚えてますか? 真紀さんの舌が切り取られていたことを」


忘れたくても忘れられない。

あの時の真紀さんの横顔。

体が跳ね上がるたびに口から噴出される血の赤さ。


雪君はクスクスと笑う。


「口は禍の素、ですよ。駆け寄った僕に救いを求めた真紀さんの舌を切り取った時。あの時の彼女の絶望に満ちた顔は忘れられません」


残酷な言葉から、真紀さんの苦しみを思い描いて、涙が零れる。


「雪。お前……なんでそんなになったんだよ……」


それまで無言だった初ちゃんが小さな声で言った。

すると急に雪君はいきりたち、


「お前のせいだよっ!」


と初ちゃんに掴みかかった。

初ちゃんは右手で雪君の手を押さえ、苦しそうに顔をしかめる。


「蜜花さんは僕のものなんだ。それなのに、それなのにお前がいきなり仲良くなって! 蜜花さんの関心を強く引いて!」


雪君はぐいぐいと初ちゃんの喉を締め上げる。


「やめろっ」


そこに快さんが割って入った。

雪君は快さんが近づいた瞬間、鍵を口に加える。

それに気付いた快さんは、悔しそうに足を止めた。
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