地の棺(完)
あの夜の男性の声。

そして雪君を運んでいるときに裏庭から聞こえた男性の声。

あれは三雲さんだったんだ。




雪君の告白を聞いて、それでもわたしは彼と一緒に行けるか?

ううん。無理。

できない。

わたしはすぐ隣に立つ初ちゃんを見た。

初ちゃんは真剣な表情でわたし目を見返す。


「雪君。わたしは一緒に行けないよ」


雪君はわたしの言葉に傷ついたのか、初めて顔を歪ませた。

悔しそうに。苦しそうに。


「……どうしてもですか」


なんていえば彼を止められるかわからない。

無言で見つめあう中、雪君と過ごした優しい時間を思い出し、胸を切なく締め付けた。

その時、ここから少し離れた場所で、なにかが爆発するような派手な音が聞こえた。


「今の音は……?」


雪君が神原さんを見る。

神原さんは首を振り、音の方へ向かおうとした。

しかしその前に、明るい光を背負い黒い着物姿の桔梗さんが姿を表す。


「母さん……」


呆然とする雪君に桔梗さんは微笑んだ。


「雪。もういいのよ。疲れたでしょう。一緒に休みましょう」


そういってゆっくりと近づいてくる桔梗さんの手にはあの小さな鍵が握りしめられていた。

桔梗さんは神原さんを見ると頭を下げる。


「先生、今までお世話になりました。

あなたは雪の孤独をよく理解してくださいましたわ。

生き神という存在に強く関心をを示し、今まで使えてくださいましたね。

でももう結構。雪は私が守ります」


神原さんは迷うように雪君と桔梗さんの顔を交互に見た。

そして次に桔梗さんは快さんと初ちゃんと見た。

その顔は母親らしい、愛情に溢れている。


「過酷な運命を与えた雪のことばかりで……あなた達にかまってあげられなくてごめんなさい。

こんな母のことは忘れて、幸せになるのよ」


そして次に桔梗さんはわたしに頭をさげ、雪君の傍に立つと雪君を優しく抱きしめた。
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