地の棺(完)
『口は禍の素』

そう言った雪君を思い出す。


わたしが目覚めて時間がたってから手紙が届いたのは、特に大きな理由があったわけではなく、雪君が知らなかったから。


でもそれじゃ……知らないままだったら?

誰も死ななくて済んだんだろうか。

雪君はわたしを通して姉を見ている事があった。

多分、とても純粋に慕っていたのかもしれない。

姉の身代わりにするためにわたしを呼び出したのに、どうやっても姉とは違うわたしに苛立ち、そしてこんな凶行を犯してしまったんだろうか。


今となっては……知ることもできない。


三雲さんを見下すように見ていた初ちゃんは、わたしの隣に立つとそっと左手を握った。


「……行こう」


そう言ってわたしを見た初ちゃんは柔らかく微笑んでいた。


「うん」


わたしは初ちゃんの手を握り返し、山道に向かって歩いていく。

その後ろからはシゲさんを抱えた快さんが続いた。


「快っ! 初っ!」


家族を見捨て、家族から逃げだした三雲さんの声が、背後から聞こえてきたけれど、誰も足を止めることはなかった。




人が一人通れるくらいの土砂が取り除かれた道を歩きながら、手に握りしめたままの鍵を見つめる。


あのまま蝙蝠たちは焼け死んでしまったのだろうか。

加岐馬島の人たちは、生き神と崇めた雪君と亘一さんがいなくなった今、また新たな生き神を探すんだろうか。

初ちゃんはわたしの手の鍵を見つめ、苦々しい顔をした。


「捨てろよ。そんなもん」


でもわたしは首を左右に振る。


「ううん。これは……雪君がわたしに向けたメッセージだと思うから、だから持ってる」


「はぁ!?」


「雪君は本当は神様なんて嫌だったんだよ。
だから誰かに助けて欲しかったんだと思う」
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