地の棺(完)
過去からの呼び声
「あらら? 蜜花さん、どうしました? 疲れちゃいました?」
わたしの前を歩いていた多恵さんまでも、いつの間にか足を止め、こちらを見ていた。
多恵さんは額に流れる汗をタオルで拭いながら、肩で大きく息をしている。
「すみません。夕日に見とれて足を止めてしまいました」
「ああ、そうでしょ、そうでしょ。
加岐馬島から見える夕日は、人工物が邪魔しない天然もんですからねーー」
そういって豪快に笑う多恵さんに、雪君がふっと苦笑する。
「夕日はどこで見ても同じじゃないかな?」
「あら、なにかおかしいですか?
全然ちがうんですよ、本当に。
ねぇ? 蜜花さん」
多恵さんに返事を求められ、思わずうなずいてしまった。
確かに綺麗だと思うが、雪君が言うようにどこで見ても、目にしている夕日は一つだと思う。
でも多恵さんは満足そうな顔をして、山道を登り始めた。
春後半の山には、柔らかな緑色の草花が茂り、木々の葉の隙間からは白い日の光が差し込まれている。
澄んだ空気が心地よい。
多恵さんは数歩歩いては立ち止まり、汗を拭く。
なんとはなしに眺めていたのだが、同じように多恵さんを見ていた雪君と目があい、二人して笑った。
「家はこの坂を上がればすぐです。
あと少し、頑張ってください」
雪君と多恵さんのおかげで、感傷は消えた。
今にも悲鳴をあげそうな、ふくらはぎと太ももを心の中でねぎらいつつ、多恵さんに続く。
目的の志摩家を目指して。
わたしの名前は森山蜜花(もりやまみつか)。
今年十八歳になった。
わたしの前を歩いていた多恵さんまでも、いつの間にか足を止め、こちらを見ていた。
多恵さんは額に流れる汗をタオルで拭いながら、肩で大きく息をしている。
「すみません。夕日に見とれて足を止めてしまいました」
「ああ、そうでしょ、そうでしょ。
加岐馬島から見える夕日は、人工物が邪魔しない天然もんですからねーー」
そういって豪快に笑う多恵さんに、雪君がふっと苦笑する。
「夕日はどこで見ても同じじゃないかな?」
「あら、なにかおかしいですか?
全然ちがうんですよ、本当に。
ねぇ? 蜜花さん」
多恵さんに返事を求められ、思わずうなずいてしまった。
確かに綺麗だと思うが、雪君が言うようにどこで見ても、目にしている夕日は一つだと思う。
でも多恵さんは満足そうな顔をして、山道を登り始めた。
春後半の山には、柔らかな緑色の草花が茂り、木々の葉の隙間からは白い日の光が差し込まれている。
澄んだ空気が心地よい。
多恵さんは数歩歩いては立ち止まり、汗を拭く。
なんとはなしに眺めていたのだが、同じように多恵さんを見ていた雪君と目があい、二人して笑った。
「家はこの坂を上がればすぐです。
あと少し、頑張ってください」
雪君と多恵さんのおかげで、感傷は消えた。
今にも悲鳴をあげそうな、ふくらはぎと太ももを心の中でねぎらいつつ、多恵さんに続く。
目的の志摩家を目指して。
わたしの名前は森山蜜花(もりやまみつか)。
今年十八歳になった。