地の棺(完)
わたしが目覚めたと同時に、両親は賠償金の受け取りをやめた。

心無い人々のせいで職を失い、再就職もままならなかった両親は、ただ寝ているだけとはいえ、わたしの介護を自宅で行うことは難しく、病院に預けるしかなかった。

そのためにはお金が必要で。

被害者が、まるで加害者のような扱いを受けることを甘んじて受けていたらしい。

でも目覚めてからは、ひっそりと穏やかな生活を送ることを望んだ。

だから今は一円も受け取っていない。

それでも、たまに現れるのである。

賠償金で楽な生活をしていると勘違いしている人が。

シゲさんの発言はまさにそういう人達と同じものだった。


わたしは悔しくて歯を食いしばる。

泣きたかった。

でも泣くわけにはいかない。

自分たちが恥ずべきことをしていないのだから、堂々としていればいいと、父や母にいわれてるから。

顔を上げると、誰も目の前の食事に手を伸ばそうとしていないことに気付いた。

いや、亘一さんはお構いなしみたいだけど。

食事時の空気を悪くしたのが、わたしのせいだと思うと申し訳なくて慌てて頭を下げる。


「確かにいたずらかもしれません。
でも、姉からメッセージのようなものを感じてここに来ました。
皆さんにご迷惑をおかけしないようにします、だから……一週間、いさせてください。お願いしますっ」


言葉を発している間、口の端が何度も震えた。

目の奥がつんとする。

これ以上なにか言われたら、泣いてしまう。

でも……


「歓迎するよ、蜜花ちゃん」
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