地の棺(完)
快さんの言葉に弾かれたように顔を上げる。
快さんも、雪君も、わたしに微笑みを向けていた。
真紀さんも、神原さんも、桔梗さんも笑顔でわたしを見つめていて、わたしは安堵から涙腺が緩みかける。
その時、部屋の奥から多恵さんと千代子さんが銀のトレイに料理をたくさん乗せて、出てきた。
「自己紹介は終わりましたか?
多恵が腕によりをかけて、蜜花さんの歓迎料理を作ったんですからね。
さあ、食べてくださいよーー」
そういって、わたしの前に大きな赤い魚の料理をドンと置いた。
香ばしいハーブの香りが、忘れかけていた食欲をそそる。
「こちら、加岐馬島沖で釣れた甘鯛の香草焼きです。
鱗もぱりっとした食感でおいしいから、皮のまま食べてくださいねぇ」
多恵さんがスプーンとフォークで身をほぐし、お皿によそってくれた。
「柚子さんは私達にとっても大切な人でした。
蜜花さんがいたいだけいてくださって大丈夫ですから、迷惑だなんて思わないでください」
三雲さんがにっこりと微笑んでそう言ってくれた。
その思いやりが、優しさが嬉しくて。
涙で視界がぼやけながら、わたしも笑顔を返す。
その後は、とても和やかな雰囲気で食事は進んだ。
多恵さんも千代子さんも、次々においしい料理を運んできてくれて。
嬉しくて。
来てよかったって思えて。
泣きそうだった。
思えば、この時が一番良かったんだ。
過去に囚われることの苦しみも知らず、現代を生きることの辛さに気づかず、妄想の世界を愛でていたから。
引き返すことは、もう、できない。
快さんも、雪君も、わたしに微笑みを向けていた。
真紀さんも、神原さんも、桔梗さんも笑顔でわたしを見つめていて、わたしは安堵から涙腺が緩みかける。
その時、部屋の奥から多恵さんと千代子さんが銀のトレイに料理をたくさん乗せて、出てきた。
「自己紹介は終わりましたか?
多恵が腕によりをかけて、蜜花さんの歓迎料理を作ったんですからね。
さあ、食べてくださいよーー」
そういって、わたしの前に大きな赤い魚の料理をドンと置いた。
香ばしいハーブの香りが、忘れかけていた食欲をそそる。
「こちら、加岐馬島沖で釣れた甘鯛の香草焼きです。
鱗もぱりっとした食感でおいしいから、皮のまま食べてくださいねぇ」
多恵さんがスプーンとフォークで身をほぐし、お皿によそってくれた。
「柚子さんは私達にとっても大切な人でした。
蜜花さんがいたいだけいてくださって大丈夫ですから、迷惑だなんて思わないでください」
三雲さんがにっこりと微笑んでそう言ってくれた。
その思いやりが、優しさが嬉しくて。
涙で視界がぼやけながら、わたしも笑顔を返す。
その後は、とても和やかな雰囲気で食事は進んだ。
多恵さんも千代子さんも、次々においしい料理を運んできてくれて。
嬉しくて。
来てよかったって思えて。
泣きそうだった。
思えば、この時が一番良かったんだ。
過去に囚われることの苦しみも知らず、現代を生きることの辛さに気づかず、妄想の世界を愛でていたから。
引き返すことは、もう、できない。