地の棺(完)
後ろを歩いている少年は、志摩雪(しまゆき)君。

十七歳で、今むかっている志摩家の次男である。


前を歩いている女性は、加川多恵(かがわたえ)さん。
志摩家で働いているお手伝いさんだ。

恰幅がよく朗らかな五十代の女性で、わたしを迎えに来てくれた。



ここは長崎県のはずれにある離島、加岐馬島。

地図にも載らないような小さな島である。

今から八年前、姉の柚子(ゆずこ)が住んでいたところだ。

姉は当時二十二歳。

たまに帰ってきて、珍しい草花の押し花などをプレゼントしてくれる人。
わたしが姉に関して覚えているのはこのくらい。

十二歳違うからか、一緒に暮らした時間が短いからか、姉妹喧嘩をしたことはなく、いつも穏やかで優しい姉が大好きだった。

そんな姉が帰ってくるはずだった、あの日。

事故は起こったのである。



町はずれにある山の上の展望台。

そこは航路にあるのか、飛ぶ飛行機を近くで見ることができる。

もちろん、姉の姿を確認なんてできないけど、あの飛行機に乗ってるのかな、なんて想像するだけで楽しいだろうと、当時十歳のわたしはそこに向かっていた。

でも、季節が夏とはいえ、時間が遅くて暗くなっていたから、両親がなかなか家から出してくれなくて……

部屋で勉強するふりをして、窓から外に出た。

部屋は一階にあったし。

靴を持ち込むと怪しまれるから、上履きをはいて。

自転車に乗って公園に向かう道、ずっとドキドキしてたことを、今でもはっきり覚えてる。
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