地の棺(完)
その時。

怒鳴り散らす男性の声に『柚子』という名前が混じっているのが聞き取れた。

姉の話をしている?

誰が?

でも扉越しの声では、話の内容までは聞こえない。

男性だということはわかるのだがその相手が誰なのかもわからなかった。

この扉を開け、直接話を聞きに行こうか?

でも。

夕食の顔合わせの時の違和感が引っかかる。

ここの人たちは、姉の何かを知っているのかもしれない。

それは送られてきた鍵の意味い通じるなにか……

どうしていいのか迷ったが、意を決して、廊下に出ることにした。

迷うより行動あるのみ。

わたしは気を落ち着かせるため、深呼吸をするとドアノブをひねった。

音をたてないように気を使いながら、扉を少しだけ開ける。

直後、ドンっという振動がして、大きな雷鳴が轟いた。


「きゃっ」


意識を廊下に集中していたため、突然の落雷に悲鳴がもれる。

いけない。

そう思った時には遅い。

相手にわたしの存在を知られてしまったのであろう。

慌てて廊下に目をむけたが、そこには誰もいなかった。

カフェスペースまで移動してみたけど人の気配はすでに消えている。

ほんの数秒の間にいなくなるってことは、すぐ近くの部屋の人だろうか?

自室に戻りながら、隣の二部屋のプレートを見る。

右側の部屋には『3』と書かれていた。

しかし、わたしのすぐ隣、真ん中の部屋にはなにも書かれていない。
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