地の棺(完)
外の雨は上がっていたが、庭の置石は濡れて黒く光っていた。

雨特有の湿った空気が、冷たく身に纏わりつく。

時折小石に足を取られながら、必死に雪君を追いかけた。

雪君は、家の右側をぐるっと回るかたちで玄関先へ移動している。

フリースの室内履きのまま外に飛び出したせいで、足元が滑り何度も転びそうになった。

その間に雪君の姿は見えなくなったので、室内履きを脱ぎ捨て裸足で追いかける事にする。

後ろで多恵さんが何か叫ぶ声が聞こえたけど、振り返らなかった。


和と洋の共存するこの家では、庭もはっきりと分けられていた。

日本庭園を模した庭は、洋館との境目から西洋式庭園に切り替わる。

ここまでくると滑稽だと思ったが、今はそれどころではない。

あの尋常でない叫び声はわたしの心に恐怖の感情を巣食わせるのに十分だった。

なにがあったのか確認するまでは、きっと掃うことができない。

玄関の前まであと少しというところで、雪君の後ろ姿が見えた。


「雪君、あの……」


何があったのか聞こうと口を開く。

わたしがいることに気付いた雪君は、素早く振り向き、右手を横に広げた。


「蜜花さんっ、来ないで!」


え?

と思った時には遅かった。

雪君の足元に広がる、赤いなにかを視界に捉える。

雪君はわたしの両肩を掴んで、遠ざけようとした。

見ないようにと。

でも既に遅い。

わたしはその赤いなにかの真ん中にあるものと、目が合ってしまった。

大きく目を見開き、恐怖に引き攣った顔。

半開きになった口からは赤黒い血が流れ出し、それが地面を赤く染めている。

あれは……
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