地の棺(完)
「なにを……」


「なにしてあげようか?

真紀みたいに舌を切り取る?」


初ちゃんは自分の舌を出し、ケラケラと笑う。

口調も声色も、昨日の初ちゃんとはまるで違う。

仲良くなれると思ったのに。

これが彼女の本性なの?

人の死を楽しそうに語る彼女を、強い怒りを込めて睨み付ける。


「悲しみに暮れるわたしを慰めに来てくれてありがとう、とか思ってた?

残念。お馬鹿さんを見に来ただけだよ」


「……もう十分でしょう?
早くでていって」


「嫌だね。まだとぼけたふりしてるからさ」


「とぼけるって……なに?」


そこで初ちゃんは一旦言葉を切った。

わたしの右耳に顔を寄せる。

その拍子に、乱れていた着物が肩からずれ落ち、初ちゃんの胸元が露わになる。

だがそこにはわたしが想像していたものはなかった。


「そんな……え? なんで……」


驚きのあまり言葉を失ったわたしの顔を見た初ちゃんは、鼻で笑う。


「ああ、気づいてなかったんだ。

っていうか勘違いしてたのはそっち。

女だと思ってたんでしょ?」


僅かに体を傾け、自分の平らな胸元を見せつけるようにいう。


「だって、声も、いや、そんな」


初ちゃんが男?

その事実は彼女の、いや、彼の変貌よりもショックだった。


「ごめんなさいね。
私、まだ声変わりしてないの」


わたしが勝手に思い込んだといいたいんだろう。

でもきっと初ちゃんは確信してやったと思う。

なんの目的があるのかはわからない。

わたしは多くのショックが重なりすぎて、意識を失いそうだった。
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