地の棺(完)
「柚子の妹が来るっていうからさ、楽しみにしてたんだよね。
なにか面白いことがおこるんじゃないかって。
案の定そうなった」


クスクスと笑う彼女の、いや、彼の顔が霞む。

いつの間にか涙が滲み出ていたが、初ちゃんに泣き顔は見せたくなかった。


「離して……」


これ以上話したくない。

なにも聞きたくなかった。

初ちゃんは冷ややかに笑い、わたしの顔に自分の顔を近づける。


「いやだね。
君には聞きたいことがあるんだ。

ねぇ、君、柚子が死んだ時、側にいたんだろう?」


その言葉を聞いた瞬間、頭の中がストロボをたかれたように真っ白になった。

彼はわたしの傷口を指先で抉るように言葉を紡ぐ。

好奇心。

そんな目的で近づいてきた人間はたくさん見てきた。

言いようのない恐怖と、不快感が体を占める。

これ以上一緒にいてはいけない。

そう思ったわたしは、体を捻るようにして必死にもがいた。

男だといっても、初ちゃんはわたしより体が小さい。

それなのにたいして動じることもなく、抵抗されることもどこか楽しそうだ。


だが次の瞬間。

初ちゃんの顔が横にぶれた。

体に生じる開放感。

そして、鈍く骨がきしむ音が響く。

なにが起こったのかわからない。

慌てて体を起こすと、そこには床に仰向けで転がる初ちゃんと、それを冷ややかに見下ろすシゲさんがいた。

開いたままになった扉の向こうには、快さんが苦笑いして立っている。


「何してんだよ、初」


シゲさんの低い声が部屋に響く。
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