地の棺(完)
初ちゃんはゆっくりと上体を起こした。

左頬は赤く腫れあがり口の端には血が滲んでいる。


「なにって。慰めてたんだよ。
死体を見てショックを受けているかわいそうな蜜花ちゃんをね」


それを聞いたシゲさんは初ちゃんに掴みかかろうとしたが、後ろから快さんに羽交い絞めにされた。


「快! 離せよっ こいつマジで許せねぇ」


快さんを振り切ろうと暴れるシゲさんを見て、初ちゃんは大声で笑う。

シゲさんは狂ったように暴れたが、快さんはシゲさんを必死に制していた。


「うん、わかってる。ごめんね、シゲちゃん」


その声がいつもの飄々とした快さんが想像できないくらい小さくて、シゲさんの体の動きが止まる。

快さんがシゲさんの体から手を放すと、シゲさんは怒りに染まった瞳で初ちゃんを睨みつけた後、無言で部屋の外に出て行った。

初ちゃんは笑いを収め、面白くなさそうに立ち上がる。


「初。いたずらがすぎるよ」


「そう? 兄貴もすごいタイミングで来たよね。
部屋覗いてたんじゃない?」


「いつもならそうしたいところだけどね。
残念ながらそこのドア、開いてたから」


そういって快さんは扉を差した。

初ちゃんは面白くなさそうな表情で、部屋を出て行こうとする。
が、直前に足を止め、振り向いた。

唇をきゅっと吊り上げ、妖艶な笑みを浮かべる。


「ねぇ、蜜花ちゃん。
さっきの言葉よく考えてみてよ。
死に囚われないで、さ」


死に囚われない?
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