地の棺(完)
気になる言葉を残し、初ちゃんは部屋を出て行った。

その背中を呆然と見ていたわたしの目の前に、快さんがしゃがみ覗き込んだ。


「弟がごめんね。大丈夫?」


「あ、はい。大丈夫です」


「くそっ、あいつ、マジで頭逝ってんだろ。
おい、快。早く病院入れろよ」


シゲさんがイライラした顔で、部屋に入ってきた。

快さんは肩をすくめ、苦笑する。


「ごめんね、シゲちゃん」


「お前に謝ってもらっても意味ねぇし」


シゲさんは憮然としたまま、ドカッと床に座り込んだ。

よく見るとその目は赤く充血しており、顔には疲労の色が濃い。


「何見てんだよ」


そんなにじっと見ていたわけではないが、シゲさんが鋭い視線をぶつけてくる。

わたしは慌てて頭を下げた。


「シゲちゃん、威圧しないの。
蜜花ちゃんに、聞きたいことがことあるから来たんだろ?」


わたしに聞きたいこと?

偶然じゃなかったんだ。

快さんは立ち上がり開いたままのドアを閉めると、そのままドアにもたれかかる。

シゲさんは激しく貧乏ゆすりをしながら、眉間に皺を寄せた。


「……くそっ、もういい」


そういって立ち上がったが、ドアの前には快さんがいてシゲさんの行く手を阻む。
シゲさんは舌打ちし、再びわたしに向き直った。


「お前さ、真紀が死ぬ前、あいつと一緒にいなかったか?」


真紀さんが死ぬ前……

カフェスペースでのこと?
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