地の棺(完)
「真紀さんと一緒にいたのは、十五分ほどです」


「十五分、か。その後誰か来た?」


「いえ、わたしがいたときには誰も」


シゲさんは険しい表情のまま黙り込む。


「あの、なにか?」


質問の意図がわからず、そう声をかけると、シゲさんはまた舌打ちした。


「お前馬鹿か?」


「ば……」


暴言に口を開いたまま、唖然とする。

馬鹿って……いや、実際自分でもそう思うけど。

シゲさんがなにを聞こうとしているのか、わたしには見当もつかない。


「蜜花ちゃん、シゲはね、真紀ちゃんが最後に誰といたのかを知りたいんだよ」


快さんが説明してくれる。


「最後にですか?」


「うん、そう。真紀ちゃんが自分で舌を……あ、ごめん」


「いえ、気にせず続けてください」


具体的な表現は真紀さんの死を現実のものだと認識させるけど、わたしよりもシゲさんの方が辛いはず。


「そう? じゃあ、ずばりな表現になるけど。

真紀ちゃんが自分で舌を噛み切ったとは、状況的に考えられなくてさ。

直前に一緒にいた誰かが切り取ったんじゃないかと思って」


その快さんの言葉は、わたしに大きな衝撃を与えた。

そうだ。

なんで今まで考え付かなかったんだろう?

真紀さんが誰かに殺されたのかもしれないということを。

『殺人』

その文字に体を大きな震えが走り抜ける。


「気づいてなかったみたいだね」
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