地の棺(完)
頷くわたしを見て、シゲさんはまた舌打ちした。

初ちゃんが言っていた言葉の意味も、やっとわかった気がする。

真紀さんが死んだ。

その結果にだけ意識が向いていて、原因は考えていなかったのである。

快さんは続ける。


「あ、勘違いしないでね。蜜花ちゃんがやったと思ってるわけじゃないよ。

君が雪と一緒にいたことは知ってるから」


耳に快さんの言葉は届いているのに、頭に残らない。

混乱、恐怖といったものに自分が支配されていく。

誰が?

誰が真紀さんを?

この屋敷の中にその犯人がいるというのだろうか?

まさか、いや、でも。


「……大丈夫?」


「あ……はい」


大丈夫なわけない。

誰かが真紀さんを殺した。

そのことはわたしの中に大きな波紋をおこした。

その波は大きな渦となり、疑心へと変貌していく。


「自殺とは考えられないんですか?」


この不安から逃れたくて、楽なほうへ思考を曲げようとした。

でも快さんは首を左右に振る。


「舌は根元に近い部分から切られていた。

自分で噛み切るのは不可能だよ」


「そんな……でも、刃物を使えば……」


「使ったとしても、それが原因で即死ということはないんじゃないかな。

時代劇とかでは舌を噛んで自害、みたいな展開があるけど、あれってショック死というよりは、舌を噛み切ったことによる出血死、窒息死が原因なんだよね。

もちろんショック死もないとは言えないだろうけど」


「即死じゃないとか?」


「即死じゃないなら、あの悲鳴の説明がつかないんだよ。蜜花ちゃんも聞こえたからあそこに行ったんじゃないのかな? 真紀ちゃんの叫び声が」


快さんは冷静に話す。

わたしにわかりやすいようにゆっくりと。

でもそれが逆に、わたしの恐怖心を煽った。
< 68 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop