地の棺(完)
「なにも知らねぇお前に用はねぇよ」


そういうとシゲさんは立ち上がり、快さんを押しのけた。

今度は快さんも制止するそぶりはない。

シゲさんは荒々しくドアを開け、振り向きもせずに出て行った。

部屋に快さんと二人になってしまった。

でも快さんが部屋から出ていく気配はない。


「あの……」


一人になりたくて、遠慮がちに声をかける。

しかし、先ほどまでとは快さんの様子がまるで違う事に気づき言葉を切った。


「快……」


「蜜花ちゃん、初とはいつ会ったの?」


わたしの言葉を遮り、快さんが尋ねる。

唐突なその質問に、初ちゃんとのやり取りを思い出し、体が再び震え出した。

快さんに悟られないように、きゅっとスカートの端を掴む。


「昨日、夕食の時に……食事のお部屋まで案内してくれました。
でもその時はわたし、女の子だと勘違いしていて……」


快さんは大きなため息をつく。


「なるほどね。初がやりそうだわ。
違うよ蜜花ちゃん。勘違いしてたんじゃなくてさせるように仕向けたんだよ、初は」


快さんは呆れた顔で後頭部に手を回し頭を掻いた。

宙を巡る視線が、部屋の中に飾られていた押し花の額縁で止まる。


「これ……」


「姉がつくったものだと聞きました。ご存じ……でしたか?」


快さんが姉の恋人だったのでは。そう思っていたからだろうか?

快さんの返事を待つ数秒は体がとても緊張していた。

快さんは押し花から目をそらさずに頷く。


「うん。懐かしいよ。とても。ここにまだ飾ってあったんだね」


いつもと変わらない口調。なんの動揺も感じられなかった。


「蜜花ちゃん」


快さんのわたしの名を呼ぶ声がいつもよりも低い。

わたしが彼を姉の恋人なんじゃないかと疑ってることに気づかれたのかと思い、ドキッとした。

しかし、快さんの口から出た言葉は予想外のもので、


「初や雪とは……近づきすぎないほうがいい」


と、一切の感情を感じさせない目でそういった。


「……え?」


言葉の意味が理解できず、聞き返す。

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