地の棺(完)
「そのまんまの意味だよ。
弟たちは繊細でね。

思春期ということもあってか、なにを考えてるのかお兄さんでもわからなくてさ」


思春期?

本当にそれが理由なのだろうか。

でも実兄である快さんにそう言われては、頷くしかない。

快さんは微笑み、目を細める。


「ごめんね。蜜花ちゃん」


そういった快さんの言葉には色んな意味が含まれていたのだが、この時のわたしにはわかるはずもなく。

多くの疑問や不安といった感情で頭の中がいっぱいいっぱいだった。

真紀さんが死んでしまったのに、笑顔を浮かべられる快さんを、冷たい人だと思ったし。

快さんが部屋を出て行った後、ちょっとほっとした。

誰かといることがこんなにしんどいなんて。

ドアに鍵をかけ、ベッドシーツに包まった。

頭の中を整理したかったから。



真紀さんは舌を根元から切り取られ、死んだ。

恐らく、直前まで一緒にいた人物によって。

それが死因なのかはわからない。

二階から落下した衝撃で、と考えられないこともないけど、そうなるとガラスが割れた後に聞こえた悲鳴の説明がつかない。


悲鳴が聞こえて、真紀さんの元に向かうまではほんの数分。


その時、初ちゃんの言葉を思い出した。


『いつ切り取られたんでしょうね』


そう、いつ切り取られたかが問題ならば、答えはひとつ。

……地面に落ちた直後だ。


でもそれは、一番考えたくなかったこと。

一番避けたい考えだった。


あの時、真紀さんの元に一番に駆け付けたのは……雪君だから。

でも、雪君を見失ったのはほんの数分だし、そんなわずかな時間でできることだろうか?

わからない。

それに、雪君がそんなことをするなんて思えないし、思いたくない。

初ちゃんがわたしのところに来たのは、きっとこの事が言いたかったんだろう。

……雪君はきっと違う。

でも、真紀さんと一緒にカフェスペースで見た、雪君の冷たい表情。

あの時の雪君の、ぞっとするような目を思い出すと、今も震えるほどに怖かった。
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