地の棺(完)
年の頃は二十代後半。

白い肌に映える黒く長い髪。

うねりひとつないその髪は、さらさらと流れるように揺れた。

意志の強さを感じる形良い眉に、切れ長の瞳。

赤く薄い唇は、花びらが開くようにほころんだ。


「ああ、椿(つばき)さんもいましたか」


椿?

昨日の食事の時にも見かけなかったその女性は、嬉しそうな笑顔で神原さんに駆け寄る。

隣に立つわたしに視線を移し、怪訝な表情をした。


「センセ、この人は誰?」


「森山蜜花さんです。柚子さんの妹さんですよ」


「柚子の?」


姉の名前が神原さんの口から出た瞬間、女性は笑顔でわたしの手をとった。

驚くわたしにおかまいなしで、ぶんぶんと上下に振る。


「私、片桐椿よ。
ああ……妹ちゃんに会えるなんて、嬉しいわぁ」


椿さんは嬉しそうにそう言ってくれたが、わたしはそれどころではない。

突然現れて、姉の名を親しげに呼ぶ椿さん。

しかもさっき、この人と初ちゃんは……

わたしの困惑に気づいたのか、初ちゃんはにやにやと厭らしい笑みを浮かべた。

椿さんはわたしが見ていたことは知らないのか、魅力的な笑顔でにこにこと微笑んでいる。


「ああ、お二人は初顔合わせでしたね。

ん? 蜜花さん、初さんとは面識がおありでしたか?」


神原さんが首を傾げる。

わたしは、椿さんから手を握られたまま頷いた。


「本当は昨日挨拶したかったのに、ちょっと体調が悪くて……ごめんなさい。

せっかく来てくれたのに、大変なことになっちゃうし。

なにか困ったことがあったら、柚子の代わりと思って、いつでもいってきてね」


晴さんはそう一気にまくしたてると、やっとわたしの手を離した。

握られていたところは、赤くなり、少しだけ痛い。
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