地の棺(完)
「ここにいるのは『家族』です。

快さんの友人や、神原先生、柚子さんの妹である蜜花さんはもちろん、あなた達もね。

家族の中に殺人鬼がいると、私は思いません」


きっぱりと言い切った桔梗さんは立ち上がり、一同を見回した。


「私は母親です。ここにいる誰もの母、そう思ってます。

母とは、子を守り慈しむもの。子に対して疑いを持つことなどありましょうか」


自分に酔っている、そんな風に感じた。

桔梗さんの振る舞いを見ていて、今の言葉程白々しいと思うものもない。

それほどに説得力に欠けた言葉だった。

それを表しているかのように、快さんはじっと窓の外を見ているし、シゲさんはむすっとしたまま。

雪君は無表情で身動きひとつせず、初ちゃんは眠そうな顔で食卓に肩肘をつき顎をのせ、目を閉じていた。

神原さんは自責の念からか今にも倒れてしまいそうなほどの青白い顔で俯き、多恵さんは今の状況におろおろしている。

そんな中、三雲さんの弟だという亘一さんを見てぞっとした。

亘一さんは、今まで表情を変えることもなく、言葉を発することもなく、おとなしい人だと思っていたけど、今は一人、笑っていた。

あまりに異様で、あまりにも異端。

なにがおかしいのかわからない。

目は食卓の上あたりを向いたままだけど、そこになにかあるわけではなく、決して愉快な状況ではないのは誰でもわかるはず。

初めて聞いた亘一さんの声は年齢に不釣り合いなほど甲高く、とても耳障りだった。

不快なあまり耳を両手で覆い隠そうとした時、突然亘一さんがわたしを見た。

口元に笑みを湛えたまま、無邪気な瞳で。

そして、口をパクパクと開いた。

口を横に開き、次は下唇を下に引くような形を。

二文字の言葉。

その動作はゆっくりと数回繰り返される。
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