地の棺(完)
わたしが理解できずにいると、亘一さんはとても楽しそうに笑った。

二文字の言葉。

ゆき?

いや、唇の開き方が違う。

はつ?

これも違う。

一体……


「奥様……これからどうなされるおつもりですか?」


千代子さんの低い声で我に返る。

千代子さんの顔からは先ほどまでの勢いは消え、青白い顔のままためらいがちに口を開いた。


「私は……なにもご家族の中に犯人がいるといったつもりではありません。

第三者の存在を言いたかっただけです」


第三者?


この言葉に、それまで俯いていた神原さんが顔を上げる。


「三雲さんも……そう考えていました。
自分たちが知らない、どこか通り抜けが可能な道があるのではないかと」


しかし桔梗さんは鼻で笑ってあしらう。


「私がここに何年住んでいると思って?

そんな道があるなら、知らないわけがないでしょう」


「ですが……」


なおも食い下がる千代子さんを制し、神原さんは続けた。


「まだ話すべきではないといわれていたのですが……

実は、第三者の存在を疑った確固たる理由があるんです」


この言葉は意外だった。

第三者の存在をわたしも考えなかったわけではない。

でもそれは都合が良すぎる考えだと思っていた。

だから、神原さんの言葉はわたしにとっても衝撃的だった。

見ると、快さんやシゲさんも同じようで、興味深げに神原さんの言葉を待っている。

神原さんは苦渋の表情で、再び口を開いた。


「最初に気が付いたのは私でした。

昨夜、嵐があまりに激しいため土砂崩れをおこすかもしれないと雪君に呼ばれました。

土嚢を置くことでなんとか回避しようと、三雲さん、快さん、秋吉さんの四人で外に出ました」
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