地の棺(完)
「ふ……ふふっ」
シゲさんが出て行った後、桔梗さんは自身の口元を手で隠し、笑い出した。
始めは小さな声で、やがて身をよじるくらい大きな声で。
狂声は暗雲とした空気を叩き割り、深い棘となってわたしの胸に突き刺さる。
意識的にその声を聞かないようにして、わたしは目を閉じた。
部屋を出ていくときのシゲさんの背中は、表に出さないように耐えている、真紀さんの事での怒りや悲しみといった感情で張り裂けそうだった。
シゲさんは真紀さんを好きだったのかもしれない。
ここにいる誰よりも人間らしいと思える、シゲさんの態度。
それは自分の夫が、父親が、兄がいなくなったのに平然としている志摩家の人々よりもわたしにとって信じられるものに見えた。
笑い続ける桔梗さんの声に耐えかね、わたしは椅子から立ち上がる。
「蜜花さんっ」
それまで無表情のまま沈黙していた雪君が、強い口調でわたしの名を呼んだ。
驚き見ると、雪君はなにか言いたげな表情でわたしを見つめている。
しかし、その肩に桔梗さんが右手を添えると、雪君はふっと体から力を抜き、あきらめたように俯いた。
「ゆ……」
雪君、そう呼びかけようとしたが、わたしを睨む桔梗さんに気付きやめる。
何を言おうとしていたのか気にはなったけど、雪君が一切の感情を排除したような顔つきになったため、わたしはなにも言わずに部屋を出た。
誰もいない廊下は暗く、少し肌寒い。
本当ならばシゲさんを追いかけたかったのだけど、もたついたせいで見失ってしまった。
大切な人を失くした痛みはよくわかる。
だから、一人にするのが心配だった。
シゲさんが出て行った後、桔梗さんは自身の口元を手で隠し、笑い出した。
始めは小さな声で、やがて身をよじるくらい大きな声で。
狂声は暗雲とした空気を叩き割り、深い棘となってわたしの胸に突き刺さる。
意識的にその声を聞かないようにして、わたしは目を閉じた。
部屋を出ていくときのシゲさんの背中は、表に出さないように耐えている、真紀さんの事での怒りや悲しみといった感情で張り裂けそうだった。
シゲさんは真紀さんを好きだったのかもしれない。
ここにいる誰よりも人間らしいと思える、シゲさんの態度。
それは自分の夫が、父親が、兄がいなくなったのに平然としている志摩家の人々よりもわたしにとって信じられるものに見えた。
笑い続ける桔梗さんの声に耐えかね、わたしは椅子から立ち上がる。
「蜜花さんっ」
それまで無表情のまま沈黙していた雪君が、強い口調でわたしの名を呼んだ。
驚き見ると、雪君はなにか言いたげな表情でわたしを見つめている。
しかし、その肩に桔梗さんが右手を添えると、雪君はふっと体から力を抜き、あきらめたように俯いた。
「ゆ……」
雪君、そう呼びかけようとしたが、わたしを睨む桔梗さんに気付きやめる。
何を言おうとしていたのか気にはなったけど、雪君が一切の感情を排除したような顔つきになったため、わたしはなにも言わずに部屋を出た。
誰もいない廊下は暗く、少し肌寒い。
本当ならばシゲさんを追いかけたかったのだけど、もたついたせいで見失ってしまった。
大切な人を失くした痛みはよくわかる。
だから、一人にするのが心配だった。