あの人は俺たちの兄だった。

俺は不思議なことに痛みも何も感じなかった

いや、痛みを感じないんじゃない

痛みに慣れているせいで自分が刺されたことにいまだ自覚が持てない

ただ、体に力が入らない、体が焼け付くように熱い



“きゃぁぁぁぁ!!!!”


あたりから悲鳴が聞こえる

珍しく本当にあわてたようなみんなの声

こうなってようやく俺という一人の人間を見た、というか


「梓兄!!」

「り・・・つ?」


起き上がれない俺の耳に葎の声が聞こえた

手を伸ばせば律の細い温かい手が触れる
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