君に奏でる物語
『ストレスでしょう』と簡潔に白板に書かれた黒い文字がそういった。

だから、なんだ?

ストレス?

それで、どうすれば僕は僕の音を取り戻せるっていうんだ?

僕は確かにそういったはずなのに、何も聞こえない僕の耳は僕の言葉を拾わない。
だから、本当にそう言っているのか、僕がそう思っただけなのか僕自身にもわからなかった。

『まずはゆっくり休みましょう』

その意味を僕はよく理解しないまま病院を後にする。

周りを見渡せば、そこらかしこで確かに囁き合っている人々がいるのに、僕の世界だけしんと静まり返っていて。

何も聞こえない“安らぎ”と、何も聞こえない“恐怖心”が僕の中で交差する。

どうして、こうなってしまったんだろう?

泣いているのか。

叫んでいるのか。

聞こえない僕には分からない。

そもそも“声”が出ているのかも。

僕には何も分からない。

うずくまって、座り込む。
僕は何かから自分を守りたくて。
ぎゅっと自分を抱きしめる。
小さくなって、そこにいた僕。
その肩に何かが触れる。
恐る恐る顔を上げた先に、困惑した君の顔があった。
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