不器用恋愛~好きな人は幼なじみ~
ーーーーーー………
ーー夕方。
結局、颯真に家まで送ってもらうことになったわたしは、あの後颯真と2人でプールを出て、家までの道を歩く。
こうやって、颯真と2人で歩くのは、久しぶりだった。
課外キャンプの日を境に、わたしと颯真は、こうやって一緒に帰る日常も、ほぼなくなっていたから。
颯真は、悠里と。
わたしは、悠太くんと。
幼なじみとして当たり前だったこの日常が、こんなにも安心するなんて。
失ってから、気づくの。
だけど、あの頃と違うのはーー
颯真の口数が、極端に減っているってことだけ。
「……ねぇ。なんであんまりしゃべんないの。」
「は?そうか?」
ついさっき、"悠太くんとなにがあったの?"と颯真に聞いた。
悠太くんが、結局最後まで教えてくれなかったこと。
だけど、颯真もーー
"なんでもねぇ。明里は気にしなくていい"
って、悠太くんと同じ。何も教えてくれなくて。
それから、颯真の口数が激減した。
「……なぁ、明里。」
「……ん?」
そこで、颯真は足を止めてわたしを見た。
「俺、今日あのプールに来てて、思い出したわ。
お前と幼い頃、小さな市民プールに遊びに行った時の記憶。」
急に何の話をするかと思えば、懐かしそうにクスクス笑いながら、颯真はまた歩きながら話し始めた。
その笑いは、何かわたしの恥ずかしい過去を思い出してるようでーー
「それ、小学生の頃の話……?」
「そうそう。お前がさ、今日みたいなウォータースライダーに乗って、半べそかいてたやつ。
市民プールのしょぼいやつなのにさ、お前、終わってから大泣き。」
「だってっ……!
あれは、まだ心の準備してるわたしを、颯真が後ろから押したからっ……」
「それにしたって、滑る間際になって、30分も心の準備いるかよ。
俺が後ろから背中押さなかったら、一生滑れてねぇよ?」
あれはわたしがウォータースライダーに初めて挑戦しようとしていた頃。
初めて経験したあの高さに、小学生のわたしにとっては怖さは最高潮だったんだからしょうがない。
思い出し笑いを楽しそうにするものだから、わたしも意地になって言い返す。
「颯真だって、深めのプールに入って、足がつかない~って、怖そうにしてたじゃん!」
「……はぁっ!?あれは最初だけの話だろ!
深さが徐々に変わってるなんて知らなくてーー。」
「それでも、あの頃はわたしの方が身長高かったから、しがみついてきたよねー?」
「お前だって、ウォータースライダー終わった後、俺に泣きながらしがみついてきただろ!」
「んなっ……!!」
こうやって、言い合うことも久しぶりでーー。
端から見たら些細な口げんか。
だけどきっと。
わたしも颯真も、これはケンカの内に入らない。
むしろ、颯真の表情は、楽しそうに笑ってて。
「颯真はやり方が無慈悲なのっ!!
背中をドンって押してさぁ…!」
「じゃぁどうすりゃよかったんだよ!?」
だから思わず、口に出た。
「せめてこう、今日の悠太くんみたいに安心させてくれる言葉をくれるとかーー」
そこまで言って、言葉を止めた。
悠太くんの名前を出した瞬間……
颯真の顔に少し影を落とした気がした。