不器用恋愛~好きな人は幼なじみ~
「俺、もう逃げたくねぇから」
一瞬、何を言われてるのかわからなかった。
颯真はわたしの手首を掴んだまま、空いた方の手で自分の頭を自棄になったように荒くくしゃっと掴むと、わたしから再び目をそらした。
「言っとくけど…!
俺は悠里に告白なんかしねぇよ!
何を思ってあいつが明里にそんな嘘ついたのか知らねぇけど、俺はそんなつもり一切なかった!!」
颯真は、わたしから視線をさまよわせたまま、目を合わそうとしない。
「……颯真……?」
「お前はさ、俺の事なんて最初から眼中になかったから気づかなかっただろうけど。
俺、お前に一番近い存在になろうと必死だったよ。」
「…………………」
「いじめを受けてた子どもの頃の俺を挽回しようとして。
勉強だって人一倍した。
スポーツだって全力でぶつかった。
お前の隣にいられるように、必死だった。
女のお前の隣にいても恥ずかしくないように……
必死だった。」
ねぇ……何を……言ってるの……?
何が、言いたいの……?
期待しちゃいけないのにーー
複雑な気持ちが、広がっていく。
「でもお前は、中学の頃言ってたもんな。
彼氏としての俺なんてーー
必要ないって。」
「………!!
なんで……それ……。」
ある日、中学の頃の友達と話してたこと。
どうしてそれを颯真がーー…?
それに……それは違う。
その頃から、颯真のことは好きだった。
だけど、人一倍女子に人気があった颯真は、彼氏としての"ブランド"ように捉えられることが多くて。
"一緒に歩いてたら優越感に浸れる。"
"自慢になる"
あの時ーー
友達から出たのも、そんな言葉だった。
颯真自身を好きだとは考えられない、そんな言葉。
だからわたしはーー否定した。
"そんな"、彼氏としての颯真なんかーー必要ない。って。
颯真はモノじゃない。ブランドじゃないの。
そんな横縞な気持ちで、颯真への気持ちを語って欲しくなかった。
「だから……高2になって、悠太に俺の場所を譲ろうとした。」
颯真は、わたしを掴んでいた手を離す。
行き場をなくしたように、その手は下ろされた。