不器用恋愛~好きな人は幼なじみ~
「えー…今ちょっとわたしも無理ーー」
「明里!!」
嫌だと言っても、きっとお母さんには敵わない。
「わかったよ……」
わたしは涙ぐんだ目を拭い、幸い目が赤くなってないと、鏡で自分の姿を確認した後、階段を下りた。
すごすごと玄関のドアを開けると、目の前に小さめの鍋をぐいっと押しつけられて。
「わっ…びっくりし…た…」
そう声を上げたのと、鍋の横から相手が顔を出したのはほぼ同時。
「よかったな!
お前の好きな肉じゃが。」
「……颯真。
いきなり顔の前に持ってこないでよ。
お母さんだったらどうするつもり?」
「こういうとき、大概チャイムで出るのお前だろ。
何年の付き合いだと思ってんの。
もう知ってんだよ。」
ジャージにスニーカーというラフな格好で、颯真はわたしに鍋を渡した。
「母親から。おすそわけ。
おばさんによろしく。」
「あ、ありがとう…」
家族ぐるみで仲のいい私たちは、こうやってやりとりをするのも日常茶飯事。
だけどーー…
今日は、タイミングが悪すぎる。
まともに颯真の目が見れなくて。
わたしは露骨に颯真から顔を背けていた。
「……明里。なんでそっち向いてんだよ。」
「べ、べつに?ちょっと寝違えてさ…」
口から出たのは、無理のある咄嗟の言い訳。
「どんな寝方したらそんなに首が直角に曲がんだよ。
お前いびきはかくし寝相も最悪だもんなぁー」
「そ、そんなことない!
颯真よりマシだし!」
「はぁ??
俺、お前に昼寝中蹴飛ばされたことまだ根に持ってんだからな!!」
「いつの話してんのよ!」
「中学生くらいか?」
「小学生ぐらいの話でしょそれ!!」
わたしが思わず颯真に顔を向けるとーー
颯真はくすっと笑った。
「……やっとこっち見たな。」