黒原紫音さんのレビュー一覧
本当はずっと前からスタートラインには立っている。 でもそこから一歩を踏み出すのは、誰だって不安で怖くて動けなくなる。 一度は閉ざしてしまった世界。 不本意で切ってしまったゴールテープ。 でも、まだ終わりじゃないから。 世界はこんなにも広いから。 空は広くて、真夜中にだって小さくとも光はあるでしょう。 走ってるだけでは見えなかった星空を見上げて、そこに広がる新しい世界を感じて。愛しい手を取り合って。 On your marks, さぁ、新たなスタートだ。 世界がどこまでも広がる可能性を秘めている10代の世代に広く読まれますように。 躓いても、何度だってスタートラインに立てることが、広く伝わりますように。
まず、タイトルが秀逸です。 ありふれた、もっと意地の悪い言い方をしてみれば釣りワードを盛り込んだタイトルとストーリーが大量生産されていくこの場所で、このタイトルと、そしてこのストーリーを書き切る著者様の心意気に拍手。 こんな場所で埋れていい作品ではありません。書籍として文芸コーナーに陳列されるべき作品です。 行方不明の男。 彼を求める女、彼女に惹かれる男。 複雑で静かな狂気を孕んだ多角関係、行方不明の彼のごとく見えない真実、見えない本心、見えないラスト。 彼女はまさに孤高の魚。 光の刺さない海の底を彷徨って徐々に光を求めて浮上していくような、息苦しさすら心地良いと思える作品です。 あなたもぜひ彼等と共に彷徨い、足掻き、一筋の光にも似たラストまで辿り着いてください。 (書籍にしてくれないかなぁ。絶対買うのに!)
何から何まで一縷の隙もなくパーフェクト。 無駄なものが一切なく、また不足するものもなく、何も言えないほどの完成度。 それなのに決して読者を突き離さない絶対的な引力。 それは、まるで『彼』のような。 単行本上下巻だろうが文庫10冊になろうが買います。 買いますから、どうか書籍で読ませてください。 この作品が紙媒体として世界に残ることを強く望みます。
ありがちな異世界トリップをここまで読ませる構成と筆致が素晴らしいです。 フィクションを読者の至近距離まで持っていき、さらに内側に取り込むことがいかに難しいかは身を以て知っていますがそれを見事に成し得た素敵な作品です。 テンポも絶妙で読者を置き去りにすることなくラストまで連れて行ってくれます。 これも作者様の緻密な計算なのかしらと深読みしつつ、ラストの一文にハートを射抜かれました。完敗です。 こんな科学者になら生体実験されてみたいものです。(しみじみ) 入賞するといいなー。