かなさんのレビュー一覧
口数少ない、猫みたいな後輩男子。と、スルメな先輩女子。二人の関係は、先輩後輩?飼い主とペット?いやいやそれとも。 本当に猫みたい。先輩女子が絡みに行ってしまうの、よくわかる。そして二人(たまにもう一人)の掛け合いがとっても楽しい。クスッてして、フハッてして、でもあの、 とにかくギュウウと心臓が絞られるんです…!! 猫系男子も良いかもしれない。というか、ものすごく良い。 真っ直ぐな気持ちって、たくさんのものを生むね。しょっぱいスルメも甘いロールケーキにしてしまうくらい。いいね、この二人すてき。 わたしの最たるオススメは29Pです。皆様もぜひ、クスッフハッギュウウを、ぜひぜひ味わってみてください。
少し浮き足立つ、クリスマスの日。鮮やかな街。 ひとり、路上ライブを聴く。生まれるのは焦りじゃなくて、ワクワク。それは、あなたを待っているから。 まだ十代の頃の、二人の出会い。 彼女は彼を忘れられず、彼も彼女を覚えていた。それだけで、きっと運命。 でも、運命を確かな絆にできたのは、彼と彼女だったから。この二人だったから。 クリスマスに、暖かい風が吹く。 世界で一番好きな人の、歌声をのせて。 いつかの日、わたしの背中を押した歌は、いま、わたしたちを結びつける。 はぐくまれた恋と生まれた愛に、心が暖まります。 素敵な聖夜のお話を、ありがとうございました。
女性を悦ばすために開発された、アンドロイド69。 アンドロイドが面白おかしい脱走劇の末、雪に埋まり、偶然出会った一人の女性。 なんてユニークでコミカルなお話か!!…いえいえ、物語は、そこからなのです。 物語の雰囲気は、コミカルかと思いきや切なく、愛恋、涙と二転三転。けれど、そのつながりがものすごく自然。アンドロイドの主人公の、心が芽生えていく様子・強くなっていくさまが上手く書き出されていて、いつの間にか共感してしまう。 恋を知り、心を得て、愛を守る。 アンドロイドが、そんなことをできるのか。 守る。だれかを。自分がどうなったとしても。 それは、人間だって、必ずしもできることではないのかもしれません。 愛する人のために、自分を捨てて選ぶ道。その道がたどりつく春まで、ぜひ熟読してください。
幼い頃に、男の子のせいで怪我をした。右目が、見えなくなった女の子。 男と女になった。いまでも二人は、一緒にいる。罪悪感を、背負う。利用する。二人の間にあるものは。二人の、行き先は。 二度読みの作品です。一度浸かってしまったら、もう。背中がぞわり、心臓がどくり、切なくて悲しくて、でも愛おしい。黒い部分と、それに悩む「人間」を書き出すのが上手いこの作家さんだからこそ書ける。 人って、きれいなものだけで繋がっていられないね。依存、過去、いろんなもので引っ張り合う。相手が見えなくなる。自分の気持ちすら、塗り潰してわからなくなる。 でも。これが愛なんだって。知った瞬間、すべてが洗い流れていく気がしました。二人は、互いの枷なんかじゃない。翼を持ってる。二人で飛べるし、温めあえる。 自然に涙が出てしまった場面が、2つあります。どこに心を掴まれるか、ぜひ読んで、見つけてほしいです。
ケーキ屋さんの彼。多忙なクリスマスを一緒に過ごせるなんて、思ってない。でも、ほんのすこしだけ期待してしまったから。だから。 わあ、いい。このお話、とってもかわいい。あたたかい。 読み終わって、思わずにんまり。 わかっているけどモヤモヤする、嬉しいけど素直になれない、そんな自分にまたモヤモヤ。女の子の気持ちにすごく共感できる。共感できるからこそ、短編なのに、こんなにも感情移入して、幸せな気持ちになってしまう。 「彼がケーキ屋さん」この設定だからこそ生まれた状況と、小道具の使い方がハッとなるくらい上手に練りこまれています。この彼と、この彼女。すごく合っているのがわかるな。思い合って、思いやっているのがわかるな。わざとらしくない、自然に生まれてくる優しさや恋の描写に、まだ心がほっこりしています。 女の子だからこその幸せがたっぷり。クリスマスの前に、ぜひご一読を。
子どものわたしは、原稿用紙が散らばる、畳の部屋に踏み込む。 彼が描くものを、一番に見るために。彼がつむぐ言葉を聞き、彼に触れられ、彼自身に、会うために。 感情に巻かれる自分は、彼の目にどう映っているのか。 八ページ。この短さでこんなにも惹き込む空気が作れる。 八ページ。もっとこの世界に浸っていたい。 そんな風に思わせてくれるお話でした。 散らばるフレーズが、一つ一つすくい上げて吟味したいほど素敵。決してこの世を優しくは見ていない、星を屑と呼ぶ彼の魅力が、存分にわかります。 美しいもの。見にくいもの。現世には、どちらが多くはびこっているのでしょうか。誤魔化さず、ありのままに物事を見るのは難しく、空っぽにしてしまわなきゃ、してしまいたい、そんな想いに駆られて。 素敵なお話を、ありがとうございます。
とある紅茶専門店で繰り広げられる、クリスマスのお話。 そこではたらく胡桃さんは、おとずれるお客さんにおいしいミルクティを入れ、ジンジャークッキーを焼く。 赤い鼻の、なんだかにくめない顔。胡桃さんの化身。 心があらぶっても、さみしくても、飲むとホッと、いやしてくれるような。 まさにミルクティをそのまま文章に表したような、ぽかぽか、あたたかい世界です。 あたたかい人のそばにいると、自分も優しくなれるね。 やさしさをもらうと、次は自分もだれかにわたせるね。 素敵な瞬間がたくさん生まれて、それを見るたびに、きっと、あたたかい人のことを思い出す。大切な時間を、きっと作っていける。 まだ心がじわぁとあったかいままです。 ハッピーミルクティ!!クリスマスが楽しみになる、すてきなお話をありがとうございます。
文化祭のあと。心の位置はどうしても、いつもより跳ね上がる、異空間。生まれる沢山のドラマ。 そんな中、輪から外れて非常階段に女の子が一人。 文化祭のあと独特の、雰囲気たっぷりな場面が見えるような、丁寧かつ選び抜かれた言葉で綴られていくお話。 短い中に、主人公の素直になれない気持ち、後悔、ドキドキがめいっぱい広げられていました。 好きって、どうして生まれてしまったんだろう。どうして気づいてしまったんだろう。 好きって、いやなものをたくさん生むね。どこに行くの。わたしは、どうすればよかったの。 吐き出せない不安が涙となってこぼれたとき、それを受け止めてくれたのはずっと見ていた、人。祭りのあとの香りがする、胸。 後の祭り。後悔しても遅いと思ってた。 でもはじまったのは、祭りのあと。 訪れる秋の気配。結びついた、二人の気持ち。だれかと手をつなぎたくなる、素敵な短編をありがとうございました。
金木犀の香りと、祭りの気配。都会とははなれた、地元の町。 遠くにいる彼氏に対する不安は、一度生まれると、ふくらんでいく。 どうして、そっちで就職したの。どうしても、帰ってこれないの。 一度飲み込んでしまうと、取り出すことが難しくなるね。 会えないから。声を聞けないから。自分の気持ちに、無理やりフタをするから。 嫌われたくない。負担になりたくない。 自分のわがままと、相手を思いやる気持ちが重なって、やってくる秋が切なさを増す。 でも、全部押さえて、「いい大人」にならなくたっていいんだって。生まれた「会いたい」を、捨ててしまわなくてもいいんだって。 たくさん飲み込んで、それでもこぼれた「会いたい」に、心がほっこりじんわりしました。 素直になることが気持ちをつなぐ。寒い季節への移り変わりを感じながらも、それでもあたたかい。素敵なひとつの恋愛模様です。
「君の知らない空」スピンオフ作品。君空を読んでいたので、より楽しむことができました。 だれかと別れるとか、捨てるとか、捨てられるとか。 それってものすごく精神力をけずられるし、そのあともずっと残る。けずられてしまったものは、もう元には戻らない。 シングルマザーとしてせいいっぱい頑張っている主人公に、さらにその傷をえぐるような出来事。読んでいて、ものすごく悔しい。でもある、こういうこと。醜い気持ちが生まれてしまう瞬間。自分が劣っているんだって、嘆いてしまう時。 そういうとき、そばで手をにぎって、君には魅力があるんだよって、教えてくれる人の存在。きっと、涙が出るほどうれしくて、あたたかい。 けずられたから、お終いなんかじゃない。けずられた部分は、優しさや暖かさで埋めていくことができるから。 雨が少し好きになれる、素敵なお話をありがとうございました。
スマートフォンから、突然出てくる王子様。王子様の役割は、主人公を癒すこと。 そんな夢のようなお話を日常にガッチン!と見事にミックスした、はじけるあめ玉のような、可愛いお話でした。 本当に、はじけるようなテンポ。次々とページをめくってしまう。登場人物みんな、生き生きして、本当に駆け回っているような。 失恋。友達。前からの。できたばかりの。 学校。海。夏。ときめき。新しい、恋。 主人公が「大好き」と告げた、自分のエゴよりも相手を優先することを選んだ、その瞬間は胸がキュウときしみました。 きっと、読み進めるうちにものすごく応援していたから。好きになっていたから。青葉も、楓も。 それは、いつから恋になったのか。生まれていた感情は、とてもとても愛おしい。 初恋が、永遠の本物になるときを願って。素敵で可愛い、カラフルなお話をありがとうございました!
幼なじみの、ふたり。 とても丁寧に作られた物語。ただ書きなぐっただけじゃない。ひとりの感情を持った人間として、描かれる登場人物たち。 その感情、気持ちが、とても自然で。 気持ち同士が、すれ違ったりどこかズレていたり。思いやったり。 まっすぐでやさしい人に恋をした。 ちがうひとのものになって、すこし色が変わってゆくその人を、嫌いになりたかった。でもなれなかった。その人はやさしく、すぐそばにいる。 気持ちは、そう簡単に消せるものじゃなくて、それはつらくて、苦しくて、どうしようもないもので。 それでも強く、顔を上げて走り出した主人公に、救われるような気持ちになりました。 溶けるのは消えることじゃない。 消えてくれない。なかったことにはならない。でも、たしかにあった輝きは、いずれ自分をもっと輝かせるはずだから。 切なく、けれど前を向けるお話をありがとうございました。
ファンタジー、愛恋物をあまり読まないわたしでも、一気に引き込まれるお話でした! なんていうのかな。登場人物が、本当に魅力的なんです。ヴァンパイアは人を惑わす色香があるらしいのですが、描かれている人物たちから、実際に溢れ出ているよう。 数ページ読んだだけで読者を引き込めるほど、しっかり作り込まれたお話には脱帽です! 主人公は、決して完全な強い女の子じゃない。けれど、必死で強くあろうとしている。 だれにも見せなかった、見せることができなかった心を溶かしたのは、真実の愛だと思います。 タイトルにぴったり、どっぷりと素敵なお話に浸らせていただきました。
なんだろうな。ほんと、説明するのがむずかしいのだけれども、でもとても魅力的なお話なんです。この魅力はなんだろう。 とても、心がこそばゆくて、ムズムズして、ちょっと切ない。けれど、悪くない心地。 学生時代に感じるやるせなさとか、焦りとか、でもそういうの、子供だとか青春だとかで片付けられるものではないんだな。 無知なわけじゃない。彼も、彼女も、わかってる。 好きなひとが自分を好きになるわけじゃないこと。 努力して必ず報われるわけじゃないこと。 血は牛乳色にならないし、世界征服だって、そんなの、自分の手で変えられるものなんて数すくなくて。 世の中の不条理に気づいてる。それでもやさしい世界を、願わずにはいられないのです。 日常に散らばってるものが、すごく愛おしく見えてくる。ふんわり、ずっしり、この魅力のなかにぜひ入り込んでみてください。
命の終わりは、とても切ない。とても儚い。 心は寄り添っているけれど、その体は、届かないところに行ってしまおうとしている。 お互いの思いと、それでも止まらない時に、心がヒリヒリします。 夜空に輝く星になりたい。 ホタルよりもずっと遠い光。 けれど、あなたに、ずっと見上げてもらえるから。それは、ホタルよりもずっと永く、強い光。 目の前に、ふたりの夜が広がってくるよう。優しく丁寧な描写のなかで、つむがれていくお話はとても淡く心にしみました。 夏なのに、シンと心に降るそれは、まるで初雪のよう。 静かな夏の夜に、ぜひご一読を。
後半に進むにつれて、涙が止まりませんでした。人と人の間には、お互いに伝えずに抱えている気持ちが、いったいどのくらいあるんだろう。 言わない。聞かない。それが、相手を思いやるからではなく。自分が傷つきたくなくて、逃げているだけなんじゃないか。 そのことに気づかされたとき、自分の心がすごく、ふるえるのを感じました。 言いたくない。聞きたくない。自分が、傷つきたくないから。でもそうして、相手を見つめることができなくなっていくことは、本当にさみしいこと。 それなら、伝えよう。ここにしかない今を、大切な人と生きるために。 作者さまのメッセージが、強く心にひびく作品。大切な人の話を、大事に聞きたい。一緒に笑いたい。相手にどう思われるかでなく、自分の思いに、向き合えるよう強くなりたい。 素晴らしいお話を、ありがとうございました。