東雲 葵さんのレビュー一覧
澄んだ夜空にしんと輝く、月の満ち欠けを追いかけて。 暖房、家族の団欒、食事にテレビ… 冬の室内は、どこまでも温かいざわめきに満ちている。 今夜は、月食。 さぁ、冷たいサッシに手を伸ばして、一緒にベランダへ出てみませんか。 だんだんと、色と形を変えていく天体ショー。 変わりゆくものを見つめながら、変わらないものに思いを馳せる。 静かな時間を、あなたに。
赤、黒、青。 地上に数多く点在する赤や黒を余所に 空は、今日も青く澄んでいる。 遠い昔、人類が誕生した頃も 天井のスクリーンは、今と変わらず 同じ色を映していたに違いない。 きっと、遠い将来、滅びる時にも。 そう思うと、所有していた 全てのものに価値がなくなって 本当に大切なものだけが残る気がする。 7年かけて地上へ出て たったひと夏で生涯を全うする油ゼミ。 目に見えない力に流され 沢山の血を流した日本の国。 この作品には ほんの一瞬でも確かに存在していた 命の交流が描かれている。 憎しみを生む 火薬の赤、血の赤。 けれど、人と人とを繋ぐのもまた 温もりの赤に、他ならない。 愛の赤、命の赤。 それは、生き物なら皆共通の色のはず。 火種ではなく、灯(ともしび)が 人々の心に、点りますように。
不揃いな橙色の果実は 冬の景色によく馴染む。 暖色、一点。 冷たい外気に精一杯耐えて、甘味をその実に蓄えて。やがて「あたし」の家に、タダ同然でやって来た。特売で、叩き売られてやって来た。 「あたし」、みかんと待ちぼうけ。 待ちぼうけ 待ちぼうけ。 同情で買ってきたみかんは、やがて「あたし」の同志になる。ひとり寂しさを飼い馴らす部屋で、ただひとつ、寄り添う存在となる。 ◆ もの言わぬみかんがころんと転がった瞬間…あなたは、そこに何を見ますか? もう一作の『ロンリーロンリー』と合わせて、ぜひ今、この乾いた空気の中で読んでいただきたい作品です。 詩のような、歌のような心地好いリズム感。誘う風にふんわりと乗せてしまいそう。 けれど、決して軽くない。 読後、いつまでも胸の奥に残ります。 ――ぜひ!
――今日もまた、ケムリに包まれたような一日が始まる。 昼もなく、夜もなく 始まりもなければ、終わりもない。 白でもない、黒でもない、境界線のハッキリしないこの世界は、どこまでも果てしなく灰色(smoky)だ。 公園で寝起きする主人公、尚樹。 トイレに頬を擦り付けられるお嬢様、美玲。 誰からも見捨てられた2人は、やがて―…? ◆ 善とは何だ? 悪とは何だ? 人とは何だ? 愛とは何だ? 人と物との境界線は? 嘘と真実の境目は? 混沌の中で、答えを求め、叫び続ける声が聴こえてくるよう。 ◆ 最後に、尚樹にとって一筋の光となった歌の一節をもって、拙いレビューに代えさせていただきます。 『ケムリに包まれた犠牲者が 魂込めて叫んでいる』 『世の中を汚染する憎いヤツら 目には見えない涙を流してる』
初めての『恋人同士』って、そういえば、こんな風に刺激的だったっけ―…大人になったいま、懐かしく思い出しました。 電話をするのも、手をつなぐのも、キスをするのも、いちいち胸を騒がせて。 体温が上がって、呼吸が苦しくて、相手に踏み込めなくて。 心の中で、照れて、笑って、泣いて、叫んで…次々に湧き上がってくる感情は、まるでグラスに注いだ炭酸水のよう。弾けて、消える。生まれて、昇る、その繰り返し。 恋した事のある女の子なら、誰でも。円ちゃんの一挙一動に共感してしまいます。 謎に満ちた、刺激的な恋模様。 時を隔てて、泡が抜けてしまっても 後に残るのは、きっと、まろやかな、甘いジュース。それは、ふたりが奏でる、恋の味。 あなたも、甘酸っぱい炭酸水と共に、ひとときの夢を、いかがですか?☆
【魔法】…【人間の力では成しえない、不思議なことを行う術】と、辞書にある。 時にそれは、私たち作家にとって、不可能を可能に変えるとても便利な道具となるし、あどけない子供たちに無限の夢を与える薬になる。 けれど、この作品で【魔法】を使う魔女は、いつも苦しそうだ。人間には成しえない不思議な力を持つ彼女が、何故そんなに嘆き悲しむのか―… 「あなたの願い事は?」 魔女は今日も尋ねる。 【魔法】の限界を感じながら。彼女を訪ねた人、一人一人の苦しみをその身に背負いながら。 実は誰より慟哭しているのは、彼女なのかもしれないと思った。 与えてばかりの彼女にも、傍らに寄り添う温かい色の光がある事が、一筋の救い。 結永さんならではの、一風変わった「願い事をひとつだけ」。 感動が、ひたひたと心の襞に染み渡ります。
ひとりの男とその花嫁をめぐる、ヒンヤリとしたサスペンス。 結局、真に「幸せ」だったのは、一体誰なのか―…?それは、誰にも分からない。ただひとり「真実」を知る事の出来る我々読者でさえも。 隣にいる人の正体を、あなたは、ちゃんと知っていますか? 怖い。けれど、最高に格好良い物語です。
いつも一緒にいた4人の仲間たち。 いつからか、そのバランスが崩れていく。なぜ?いつから―…? 等身大の淡い恋模様を、爽やかに書ききった杏里さんに、拍手喝采です。 みずみずしい感情、おぼろげで初々しい恋、一生懸命さ。挫折、嫉妬―…全部、青春時代に私たち大人が置いてきたものだ。 ドキドキします。 ヤキモキします。 キュンとします。 きっと、誰もみな心の中に、この物語のラストシーンに似た心象風景があるはず。 さくら、ひらひら 舞い散る 淡い桃色の―…思い出。 ぜひ、お読み下さい。
名作集です☆ Nanohaさんには、いつも驚かされる。 一体、どうして こんな作品が書けるんだろう…と。 毎回、小気味よく期待を裏切ってくれるNanohaさん。今回も、胸の隙間にスマッシュヒット!! ♪どれもオススメですが、個人的に、「片割れ」のお話が好きです。
夜に、ひとり静かに読みたい作品。 恋人:海月を待ち続ける羽美。 羽美をそっと支え続ける友人:砂名。 海月との思い出ひとつひとつの光景が、羽美の切ない心情と相まって、とても美しい。 海月は何故、突然姿を消したのか。 物語に溢れている暗喩も、素敵です。 星降る夜空の下 たゆたう波の音と共に しばしの夢を、あなたも是非。
陽菜ちゃんの想いを「小さな恋」と表現するとしたら、幸樹くんの姿勢は「大きな愛」だなぁと感じています。 包みこんで、守る愛。 最初は、胸の大きさにこだわる彼に、「何よバカー!」と思っていましたが… 最後は、彼の男気に泣かされました。 連載中は、ほんとうにリアルタイムに毎日交換日記形式で更新されていて、ドキドキ、ハラハラさせられました。 男の子って、バカだけど、だから、すごい。 ぜひ、Nanohaさんの陽菜ちゃんsideと合わせてお読み下さい。 甘酸っぱくて、せつない、一生懸命な二人の恋を、きっとあなたも応援したくなるはず!
ほんとうに、そう思います。 主人公の陽菜ちゃんも ヒーローの幸樹くんも 健気で、一途で、いじらしくて。 最後、「ふたりとも、頑張ったね」って、抱きしめてあげたくなりました。 一冊の交換日記から、物語は始まっていく。 まさか、こんなに泣いたり笑ったりするなんて、最初は思いもしなかったはず。 リアルタイム更新であった事も手伝って、ふたりがすごく身近に感じられました。 一生懸命、生きてる。 一生懸命、恋してる。 ぜひ、読んでみて下さい。 きっと、ページをめくる手を止められなくなるはず。 せつなくて、甘酸っぱい、小さな恋と、大きな愛の物語。