汐見 夏衛さんのレビュー一覧
音楽、ロック、ビートルズをこよなく愛しておられる作家さんによる、小さな女の子の一夜の冒険。 一目惚れしたアコースティックギターを背負って、夜の街に繰り出したすず。 いつもと違う街の景色。 音楽を、ダンスを愛する若者たちの時間。 そこですずが出会ったのは………。 独特の空気感をもった素敵な作品です。 江國香織さんが書く児童文学をなんとなく思い出しました。 あなたもすずと一緒に小さな冒険をしてみてはいかがでしょう?
恋って自分ではどうしようもないもの 好きになってはいけないと 頭では分かっていても 惹かれてしまう いっそ嫌いになりたいも思っても どうしても嫌いになんてなれない 自分の恋心に振り回されて 自分の恋心に苦しめられる 切ない…… とても切ない、けれど 最後には清々しい気持ちになれる 素敵な作品です ぜひご一読を!
これは純文学作品です。 簡潔で小粋な言い回しの文章、美しい情景描写、どこか他人事のような心理描写。 50ページ少しの短編ですが、読後には、シックでスマートなフランス映画を観た後のような感覚になりました。 人生の苦さを味わいつくしてきた五十女が、自分の店で働く若い二人ーー朴訥とした青年と、無表情な女子大生を見守りながら、 自分の過去を振り返る。 その脇にはいつも、美味しいパンとコーヒー。 無性にパンが食べたくなります。 とても素敵な小説です。コーヒーをお供に、ぜひぜひご一読を。
という言葉に反応したあなた! ぜひ読んでください。 これは作品中に出てくる、あるバンドの名前。これを英語に直すと……?この架空のバンドには、元ネタとなった現実のバンドがあります。思春期の葛藤、叫び出したいような衝動を音楽にし続けるこのバンドを、こよなく愛しておられる作者様の作品はいつでも、そういったやりきれない気持ちの高ぶりを言葉にしたもの。私はいつも「自分の思いを言葉にしてもらった!」と感じます。 「リヴオン」は圧倒的な世界観と緻密なストーリー展開に支えられた、とても斬新なSFファンタジー小説です。 まるでRPGゲームに入り込んだような臨場感と高揚感。文句なしに面白い! そして、底抜けに明るい主人公の抱える葛藤。誰もが心当たりのある気持ちかもしれません。 ぜひともご一読を。
非常に深く、重く、大きな作品です。 普通に考えれば小説二冊、いえ三冊書けるほどの深さのある作品です。 作者様の伝えたいテーマが、それほど多く、大きく、深いのです。 生きるとはどういうことか? 死ぬとはどういうことか? 孤独とは何か? 他人との関わり方とは? インターネット社会、オンラインゲームにおける対人関係の在り方とは? そして、愛とはどういうものか? 作者様が深く深く考え抜いた壮大なテーマが、冒険ゲームを通して読み手の心を貫きます。 とにかく、大きな作品です。ぜひ読んで、そして、考えてみてください。 生と死について、孤独について、 愛について。
周りの「いわゆる女の子」に馴染めない、主人公の女の子・純。 そんな純が出会ったのは、同じく女嫌いな男の子・理央。 「女が嫌い」という共通項から、急速に仲良くなっていく二人。 でもそれは、友達同士のような関係。 そんな関係ががらりと変わる事件が起こって……… ボーイッシュな純の独白がとても軽やかで楽しくて、きっと女の子なら誰もが「分かる分かる、女子のそういうところがめんどくさいの!」と共感してしまう部分があると思います。 また、空咲さんらしい安定した文章は一文一文がとても印象的で、風景描写もさわやかで、すごくきれいな小説です。 特に私は、最後の一文がとってもお気に入りです! おすすめです、ぜひご一読を!
と悶えてしまうほど、可愛くて純情な男の子。 好きな女の子をいじめてしまう、典型的な小学生系男子です。 主人公の女の子も鈍感でおバカ(失礼)で微笑ましい。 キャラクターの個性だけでなく、テンポの良い文章と所々に散りばめられた笑いも魅力的です! とにかく胸キュン&爆笑必至のすてきな作品。ぜひぜひご一読を!
「その瞳に映りませんように」 「私」はユズキくんの瞳が好き。 でも、映りたくない。 それはどうしてなんだろう? その答えはなかなか明かされない。 ユズキくんの目の描写が、山田詠美さんの文章を彷彿とさせる。 鋭い観察眼を感じさせる透明な文章。 引き込まれながら読んでいくと、少しずつ二人の距離が縮まっていく。 でも、「私」はユズキくんの瞳に映りたくない。 クライマックスでその謎が明かされる。 そして、最終ページの最後の最後で、「その瞳に映りませんように」というタイトルに秘められた仕掛けがすとんと落ちてくる。 タイトルのつけ方、その扱い方が素晴らしい。 ぜひご一読を。
読後、なんともいえない余韻の漂う超短編小説。 短歌や詩のように、短い言葉に籠められた感情。 はっきりと書かれたわけでもないのに、切なさが伝わってくる。 最後のページまで読んで初めて、表紙に書かれた一言の意味がずしんと響く。 とても趣向の凝らされた素晴らしい作品です。
繊細な文章力で描かれるのは、透き通って美しい絵画のような海底の世界。 そして、その中をゆったりと泳いでいく、「ぼく」と「人魚」。 最後まで話の展開が全く読めない。 でも、引き込まれて、次々とページをめくってしまう。 とにかく、美しくて不可思議で、そして心がほっこりと温まるお話です。 ぜひ読んでみてください。
奇跡は起こるもの? いえ、起こすものです。 どこかピュアで不器用な主人公の女の子が、クリスマスの夜、可愛い奇跡を起こします。 とってもほのぼのする素敵な短編作品です。ぜひ読んでみてください。
とにかく、圧倒された、の一言。 青春時代を苦しみ抜いたある小説家の、正直すぎる告白。 極限まで綾を削ぎ落とした簡潔な言葉たちが、心に突き刺さる。 主人公の苦しみも痛みも悲しみも、ひどく客観的に描かれているのに、まるで自分のことのようなリアリティをもって感情が迫ってくる。 たった一つの傷から始まったトラウマが、こんなにも長い間、途切れることなく人を苦しめるのか、と青ざめるような思いがした。 読むと、痛い。とても苦しい。 でも、ぜひ読んでほしい。 青春のまっただなかにいる人にも、青春を終えた人にも。 深い自省の中から生み出された言葉たちを、ぜひ真正面から受け止めてほしい。 『私が生きる理由は、小説を書くため』という一文が重い。 書くことで命を繋いでいる小説家の吐き出した言葉たち。だからこんなにも心を切り裂くんだ。
主人公のようこは、アングラでは定評のある女ギタリスト。 ジョン・レノンの命日に生を受けた。 そんな彼女の、20回目のDecember 8th、その一日のお話。 メジャーシーンのプロデュースに馴染まず、たった一人、ギター1本を相棒に、小さなライブハウスをさすらう孤高のギタリスト。 カッコよすぎる……! とにかく読んでみてください。 圧倒的な表現力と、ハードボイルドな世界観と、そしてヨーコのかっこよさに、必ずのめり込んでしまうことでしょう。 短い小説ではありますが、内容の濃さは一編の映画のようなのです。
哀しくて、美しい世界 言葉の一つひとつが透き通っていて 悲しい心の二人が 吹雪の中で身を寄せ合う様子が 目に浮かぶようです まるで一編の詩のように 想像力をかきたてられる 美しい短編小説 ぜひ読んでみてください
感覚的でリアリティのある音楽描写 練習スタジオの空気感 ライブハウスの独特のにおい ライブの熱狂と高揚 楽器を奏で、音が合わさっていく興奮 ギターを弾く指の痛み とにかく描写がリアル まるで自分も一緒にメンバーとして音を奏でているような そんな気分になれる青春音楽小説 そして登場人物のクセの強さ 王子だけど毒舌なベーシスト 元ヤンだけど優しいギタリスト デブだけど紳士なドラマー あっという間に最後まで完読 とにかく読んでみてください!
顔も普通、成績も普通、運動神経も普通、ついでに性格も普通。 とにかく普通な、『ミスター平均値』の田中くん。 ケータイ小説の相手役としては、あまりにも斬新すぎる。 でも、確かに、高校生の男の子って、こんなもんだよね!と、何度も頷いてしまいました。 男子同士でつるんでばっかりで、女子に対してはちょっと素っ気なかったり。 そういうリアルなところが妙に楽しい。 でも、田中は、普通の男の子なだけじゃないんです。 少しだけクールで、なにげに優しくて。 でもちょっと残念で、『ドンマイ、田中』な感じ。 まぁ、読んでみてください! いつの間にか、究極のフツメンに、究極にキュンキュンしちゃいますよ。
短い名品です。 いわくつきのモノが集まる不思議な骨董屋。飄々とした店主と、ミステリアスな青年。 幻想小説のような独特の雰囲気。 骨董屋の空気感。 そして、繊細な描写により、絵画のような、映画のワンシーンのような、鮮やかな情景。 読後には、切なくて、でも心が洗われるような、独特の清涼感が残ります。 ぜひご一読を!
という感じです。 私は、もともとは紙の書籍ばかり読んでいて、正直「ケータイ小説、」と聞くだけで軽く見ていた節があったように思います……野いちご作家の皆さま、ごめんなさい。 でも、あるきっかけがあって野いちごに登録して以来、本当に見る目が変わりました。 確かに、文章が少し不自然だったり、誤字脱字が気になったり、最初は「やっぱ無理かあ」と思いながら読んでいました。 でも、なんででしょうね? ケータイ小説って、すごく、面白いんですよね。思った以上にのめりこんで、先が気になってしかたなくて、結局最後まで読み切ってしまう。そういう「読ませる力」があるんですよね。書籍化された下手な「純文学」作品よりも、ずっと。 それはなんでなんだろう?と追い求めていた答えを、与えてもらった気がします。