長田 知冬悠さんのレビュー一覧
取材で内戦の地へと向かった俊介。 土も人もすっかり渇いた土地で、俊介が見たものは――。 生きる土地も環境も違えば、価値観も常識も変わってしまう。 当然かもしれないが、時に残酷で悲しいことである。 わたしたちに何が出来るのだろう。 少年が伝えて欲しかったことは何なのだろう。 読後、とても深く考えさせられました。
突然田舎に身を寄せることになった、陸。 何もないその町に馴染めず、大嫌いだった。 山のゴミを黙々と拾う大樹と、祖母のやまじい。 偽善者めいたその行動に、陸は無性にいらつく。 ある日、大樹、委員長の七菜と共に、陸は祭りの責任者をすることになった。 不機嫌に始めたこの仕事も次第に楽しくなり、次第にクラスの仲間ともとけ込んだ。 そんな中、見せたいものがあると大樹に連れられ、陸が目の当たりにしたものとは――。 不法投棄。自然破壊。ゴミ処理問題。 わかっていても、いざ自分が何ができるかと考えても、なかなかできることが思いつかなかったりする。 だが、大きなことはしなくていい。 一人一人が小さなことをすれば、やがてはそれが大きな力となるのだから――。 作中の小さな子供たちの熱意は、地球からのメッセージ。 あなたにもきっと伝わると思います。
教室によくいる「普通」の子だった、まい。 家では、父を気遣い「いい子」だった、まい。 突如上がった父親の再婚話に、爆発するかのように行き場のない気持ちがこみ上げる。 そんな中、ふとしたきっかけで、いわゆる「不良」の真紀と仲良くなり――。 14才だから感じる気持ち。 大人になればもっとうまくやり過ごせるのかもしれない。 でも、14才だからこそ感じることができる気持ちもある。 久しぶりに、忘れかけていたものを思い出したような気がした。 妥協や寛大な心、広い視野と理解力を持てたのは大人になった証拠。 けれど、少し寂しい気もする。 時代設定は今より少しさかのぼるものの、作者の筆力により違和感なく引き込まれて行く。 熱い気持ちがたくさん詰まった「14才の地図」、ぜひどうぞ。
「私の未来は…何処にあるの?」 月を見て思う、桜木 姫乃は大手財閥の一人娘。 未来が見えない人生を送るくらいなら、1人で孤独に生きた方が幸せなのだと家を飛び出した姫乃は、月明かりの下で一人の男と出会い、惹かれてしまう――。 果たして、運命だったのだろうか。 それは、月だけが知っている……。 Riiさんテイスト満載の、ロマンティック・サスペンス。 サスペンスが苦手で敬遠してしまうという人も、この作品は読みやすい柔らかな内容に仕上がっていると思いますので、この機会に触れてみてはいかがでしょうか?
結婚して、幸せだったはずなのに。 いつの間にやら、夫の存在が疎ましくなり、やること言うこと全て見下してしまう――。 そんな中、昔、想いを寄せていた人と再会する。 心が揺れる真理……。 そして、真理が下した決断は? 夫の文句をいう女性は、世の中実に多いのです。 不満?それもあるでしょう。 けれど、何かを見失っている気がしてなりません。 貰うばかりで与えることを忘れていませんか。 受け身なだけでは、自分の幸せも逃げてゆくのです。 真理は、大切なことに気付けました。 拓也の愛も大きいですが、ちゃんと自分で立ち止まって考えることができたのです。 夫婦ですれ違い中の人、それから将来は夫婦になろうとしているカップルの人にぜひ読んで頂きたい作品です。
桜の元に送りつけられる、奇妙な手紙。 それに秘められた意味とは…… そして送り主は一体――? さまざまな「秘密」が絡み合うこの作品。 誰しも、一つくらい秘密は持っているはず。 そして、人の秘密というものには興味も湧くものです。 作品内で徐々に明かされて行く秘密に、誰もが身を乗り出してしまうことでしょう。 彼女の言動はさておき、桜は実はとても真面目なのではないかと。 自分の思いに、ただまっすぐ突き進む強さと、キレる頭脳。 彼女ならきっと幸せになれることでしょう。 読み応えある、二転三転の展開。 ページをめくる手が止まりません! ぜひどうぞ。
俊介の自慢の彼女は、年上の麻美。 文句のつけようがない麻美だが、実態は……? 俊介を思いのまま振り回す麻美の気持ち、わかります。 それほど、俊介はかわいいのです! そんな麻美も、女の子らしい一面もちらりと見せたりもして……ますます俊介ははまってしまうのもわかる気がします。 きゅんきゅんしながらさっくり読めてほほえましい作品。 ぜひどうぞ!
松嶋家シリーズがサスペンスリレーに登場! 長男・茂男の決意したことから巻き起こった、松嶋家の事件。 果たして誘拐事件は無事解決するのか――。 そして芽生える『殺意』……。 そこは松嶋家、ちゃんと期待は裏切りません! しっかりと笑わせてくれることは保証致します! 【SR】ファン、松嶋家ファン、ともにたっぷりと楽しめるなお得な55P。 ぜひどうぞ!
双子の姉を亡くした経験を持つ主人公。 曖昧な記憶を確かめたくて、真相を調べようとするのは、きっと誰でもそうするに違いない。 ……本当のことは知らなかった方が良かったのか、それとも……。 緊張の走る展開。 ミステリ風味のサスペンスを、あなたも是非。
悩みを抱える望の手元に、ある日突然やってきた不思議な卵形の人形。 願いが叶うというその人形に半信半疑ながら、きっと軽い気持ちで願ったこと。 でももし、本当にそれが叶ってしまったとしたら―― 本当に大事なものは無くした後で気付くとよく言われますが、望も失いそうになった時、より一層初めて家族の存在の大切さに気付いたことでしょう。 ラストの一ひねりがまた、サスペンスらしい作品。 短編ながら、読み応え有りです!
姉妹は大人になってからが楽しい。 よく言われることです。 一緒に買い物に出かけたり、洋服やネイルエナメルの貸し借りをしたり。 でも、同じ男性が恋人になったら……? こればかりは仲良く共有というわけにはいかない。 姉の立場であるわたしには真理の気持ちがよくわかります。 逆に妹の立場の人には恵梨の気持ちがわかるでしょう。 姉妹の持つリアルな想いが切ない恋愛模様と共に丁寧に綴られています。 短編とは言えしっかり読める作品。 お勧めです。
兄を不慮の事故で失った主人公。 運命か偶然か、出会った一人の女性が口にしたのは兄の名前……。 兄への想い。 女性への想い。 そして掛けがえのない友人たちとの友情。 なめらかに綴られる文章で爽やかに進んでゆきます。 兄は見守っていたんですね、ずっと彼のそばで温かく。 そして時を待って、兄がやり残したことを彼に託したのでしょう。 心に静かに染み入る、青春物語。ぜひお勧めします。
神が解決できないことはないのではないか。 そんな気さえするほど、行動力と明晰な頭脳、そしてあふれる正義感を持った男の「なんでも屋」業。 第一幕に引き続き、見事なまでの細やかな描写。 緊迫感で手に汗握るストーリーは、いつもながらあっというまに読み終えてしまう。 自分の大切な人達への熱い思い。 ハードな内容ながらどこか温かなものを感じるのは、神の人情味あふれる姿が見えるからではないだろうか。 最終幕への期待は当然のように高まる。 まだの人はぜひ、本棚へ。
カジィコウさんの作品に共通して感じるのは「音」です。 文をたどっていると、まるでどこかから音が聞こえるよう。 例えばそれは、物静かな音だったり、小さなため息だったり。 もちろんこの作品からも、色々な音が聞こえてきます。 女性作家が記述したのではないかと錯覚するほどの、女性目線の文体。 けれど、女性が書くより幾分さっぱりしていて、とても心地よいのです。 強いようで弱い、カジィさんの作品の女性はみな、誰かを寄り添わせておいてあげたくなります。 息詰まってる人にはきっと、前向きな気持ちを貰える作品だと思います。 そして、無性に海が見たくなるでしょう。
物語は主人公の夏の思い出の一ページ。 しかしながら、あちこちに散りばめられている様々な現代社会への問題点。 思わず、胸をしめつけさせる。 主人公がいつか大人になった時、それを感じ取ってくれたらいいなと願うばかりだ。 いつもながら細やかな情景描写が、物語に奥深さを加えている。 夏の匂いがあちこちに詰まっていて、思わず、懐かしいという言葉が浮かぶこと間違いなし。 勲章を手に、一回り大きくなった主人公の姿。 ぜひご覧あれ。
夢中で打ち込めるものが、ありますか? 何か一つでもいい。 夢中になれるものがある喜び。 ただ、バスケが好き。 そんな双英が出会ったStreetBall。 その裏に込められた意味を知った時の葛藤や、周りの人の温かさを知った時の思いなど、すべてが強く伝わってきます。 いつもながら登場人物が皆、素敵だ。 作者の強い思いが込められているからだろう。 バスケシーンでは、目を閉じるとバッシュが床をこする音が聞こえてきそうなほどの躍動感が伝わってきます。 熱い青春ストーリーを、ぜひ。
#エゴイズム【egoism】 自分の利益を中心に考えて、他人の利益は考えない思考や行動の様式。 -------------------------------- 多かれ少なかれ、誰しも持ち合わせる部分。 持つことが悪いのではなく、持ち方や出し方、占める割合の問題なのだ。 小さい頃はもっと簡単に、人を好きになったり嫌いになったりしていた。 大人になるとそこにいろんな思考や駆け引きが加わり面倒クサイことになる。 ――答えはきっと簡単なところにあるはずなのに。 静かに流れる時間が、文面を通して伝わってくる。 それが、とても心地よく染み入る。 大人の恋話。 小さな石ころにつまづいたら、ぜひ。 なにか、ヒントが見つかるかもしれない。 冬、マフラーを見たらきっとわたしは、この作品を思い出すだろう。
数年前までは、ネットをするという行為にもっと警戒心を持っていたような気がする。 携帯でネットをするのは手軽だが、その裏に潜む危険。 知識なく使うことのリスクを意外と「わたしには起こらないだろう」と軽く考え、楽しさを優先して利用してしまう。 最初の読み始めは、携帯小説サイトの風刺混じりの作品だと思ったが、読み進めるうちにそれだけではないもっと危険なものだと気付く。 途中からめくる手が止まらない。 この先どうなるのか? ただそれだけが気になる。 それは普段使うツールでの見慣れた行為であり、他人になりきったかのような錯覚に陥るからかもしれない。 IDとパスワードは立派な個人情報です。 忘れたり放置したりするとあなたも……。
なんでも屋とは、一言で言えば、よくある便利屋よりも、更にいろんな仕事を引き受けるハードな仕事。 店主・神はかっこいいのです。 「ホスト神」のレビューでも同じようなことを綴ったが、世界観は引き継がれたまま舞台はより一層アンダーな世界へ。 不思議と神がいる暗黒はおどろおどろしくない。 むしろかっこいいと思ってしまうのは、やはり神だからなせる業だ。 一葉の一途ぶりもかわいらしく描かれており、アングラから時々一息つくことができる。 この後2作も続きが読めるのもまた魅力。 まずは、第一幕、どうぞご堪能あれ。