紫鶴さんのレビュー一覧
「あんなに好きだった曲が今はまるで、体を這う虫みたいに、気持ちが悪いの」 彼女は私にそう言った。 彼女がラヴ・ソングを聴けない理由。 それは、私と同じだった。 *** 最後のページに辿り着いて、清々しい切なさがすっと心に流れてきました。心理描写に絡む情景描写が秀逸で、たった三ページの世界観に強く引っ張られます。 カースト上位のかわいい彼女と、カースト下位の地味な私が持つたった一つの共通点とは。オススメです。ぜひ。
『殺してあげましょうか?』 ある日の夕方の教室。 俺は見えないモノが打てるらしい、 三枝という後輩に出会う。 それから始まるのは、 摩訶不思議な日々――。 けれど、そのところどころに、 違和感を感じる。 *** すごく面白かったです。8×8さんの作品は幾つか読んだのですが、中でもこの物語は一番好みでした。 8×8さんの描くホラー小説には、怖さと同時に、不思議さが共存していて。この物語も例に漏れず。淡々とした入野の一人称で描かれる物語で、ラストはどんでん返し。驚愕しました。あぁ、あれはそういう意味だったのか、とたくさんの伏線が一気に回収されて清々しかったです。終わり方も、とても好きです。三枝のキャラも、個人的には大好物でした(笑) 語彙の少ない私じゃぴったりな言葉でこの物語を表せないんですけど、とてもオススメです。
商売人であるキリクは、愛ラクダのハールを連れ、砂漠の真ん中にあるというオアシスを目指していた。一人の旅人がつくったその街に着くと、キリクは地面に風呂敷を広げ、商売を始める。 ――しばし時間が経ち夕刻になり、閉店しようかとキリクが思い立ったとき。とある少女が短剣を譲ってほしいと彼に言った。そんな彼女の頭には角が、足には切っても切れない、迫害の証である足枷が…。 *** 迫害され、恐れられる角族の少女イーコ。キリクにとっても、角族は偏見の対象だった。けれど常識はふとしたことで覆り、もしかしたらそれは、自分の狭い世界の中でしか成り立たないものだったのかもしれない。 『差別』という重い問題を書きこなしている作者さんに脱帽です。一つ一つの言葉選びにハッとさせられ、気づかされることもありました。 的外れなレビューかもしれませんが、お許し下さい。この物語を読ませて頂き、ありがとうございました。
極普通の主婦 麗華は、いつものように 節約しながら買い物をしようとして、 息子の祐樹をカートの上に乗せた。 そして、特売品売り場へ向かおうとする。 そこで起きた一つの事件。 家族は、破滅へと進んでいく。 *** 最初は読み流す程度でしたが、読んでいるうちに物凄い力で引っ張り込まれ、何度 鳥肌が立ったかわかりません。特に心理描写が私の知るどの方よりも秀逸で、彼女が狂う描写を読む度震えていました。とても怖かったです。この作品は掘り出し物だと思いました。 ただ、題名に少し引っ掛かりを覚えました。クレームがとっかかりとなって彼女は狂っていきますが、題名にするほどクレームが作中に出てきたような気がしません。私には、彼女が家族かお金かのどちらかを選んだような印象が強いです。題名を変えればさらにいい作品になるのではと思います。 震えるほど怖く、かつ上質な作品を読ませて頂きありがとうございました。
寂れたかつての大都市、東京。 その街に光は差すことがなく 彼は太陽を見たことがなかった。 そんな彼に、彼女は言う。 「ボクらの正義を探しに行こう」 正義を決めるのは、だれなのだろう。 *** まず、この作者様の文章力に目を見張りました。頭の中に鮮明に景色が浮かんでくる。凄い作者様を見つけられた、と感動しました。全て文字で構成されているのに、まるで本当に目の前で彼らの行動を見ているような錯覚に陥ります。不鮮明で鮮麗な映像。それは、自己満足の正義をあげる紙袋くんだったり、灰色の空だったり、割れた窓ガラスだったりするけど。読み終わって一筋の光を真近に見たような気分になります。『正義』という、とても難しいテーマを描かれた物語。作品全体に漂う退廃的な雰囲気に、不思議なノスタルジーを感じました。 一気に引っ張り込まれ、気づけば二度、三度と読み返す私がいます。ぜひぜひページをめくってみてください。
レビューを書くのが、こんなにも難しい作品は初めて。これを読んだ時、ものすごい衝撃で、殴られたような気がしました。読み進めるのがとてもしんどかったけど、読み終えたいって切望して。 世の中に溢れかえっている理不尽を、すごく生々しく描き出している。主人公のひよりが恋する美少年 瑠樹亜や、F組の儚い系美人の美山さんを囲む、理不尽。それ以外にも、いっぱい作品の中に、理不尽が溢れていて。口内が、苦々しい思いでした。ウチの家族は幸せだなって感じた私は、ひよりみたいに、共犯者になんてなれっこない。興味半分の傍観者でしかないんだろうなって、思いました。 仄暗くて、ストレート。そんな印象。文章は淡々としてて、時には面白くて、ひよりの一人称で語られた作品だから、読み終えられたのかも。 そんなこんなで文字制限。残りは感想ノートにて投下します。 読む人を選ぶ作品だけど、ぜひ、読んでみてほしいなぁ、と思います。
バスケ部の女の子と、バスケ部の、 女子憧れの男の子の話。 偶然 二人きりになって。 「すき」って、 心が、漏れ出してしまって。 彼と、付き合うことができて。 だけど、彼とわたしだけの時間は 10分しか、ない。 わたしだけが、彼を好きな気がする。 ある日、見てしまった。 彼を好きな女の子と、喋ってるとこ。 好きなのは、わたしだけ? 不安になって、我慢、できなかった。 *** 心がほわほわできて、主人公の伊織ちゃんがものすごく愛らしく思えました。本当に、わたしのこと、好きなのかな。付き合ったことがある人は、一度くらい、思ったことがあるのでは?私はそもそも((ry とても可愛らしいお話で、伝えるのも大事だなって、感じました。新年早々、とても素敵なお話、ありがとうございました!!
毎日同じ時間、あたしの働くコンビニに 来てかぼちゃプリンを買っていく変人と。 とあるきっかけで、バレンタインデーに 付き合うことになりました。 名称、カボ。 好物、かぼちゃプリン。 前世、カボチャ。 何もかもがカボチャな彼の、 どこが好きなのかわからなかったけど。 …カボがカボだから、好きなんです。 *** 愛おしいです。 カボと、幸子ちゃんが。 一つ一つのページで、 泣きそうになったり、笑ったり、 幸子ちゃんと一緒に一喜一憂しました。 アンバランスな、それでも 凄く素敵なカップルだと感じました。 とてもオススメです。
前作にて記憶を失った女子高生、 黒田 愛美。 彼女が諸事情により転校した高校は、 全国有数の金持ち学園だった。 その高校でまた、彼女は 真っ黒な恋をする――。 ミツケタ…… 今度こそ カレが私の 運命のヒト 真っ黒な愛が再び、暴れ始める…。 *** 完結おめでとうございます! 前作に引き続き、こちらの作品も更新当初から追わせていただきました。 猫や売春、暴走にナイフ、十字架。 今回も(恐怖の)ゾクゾクが 終始止まることがありませんでした。 前作を知らない方でも読めると 思われますが、前作を読了済みの方は ぜひ、グレードアップした黒愛を、 どうぞ。
アカリ。アカリ。 君を想って、俺は今夜も眠れない。 ――アカリが、 死んじゃう夢を見てから。 *** どこまでも深くて濃い、海みたいな物語。 そんな印象を受けました。 私の持つ語彙じゃ、ふわっとしてて、 それと同時にジンとする、 不思議な感覚は充分に表せません。 どん、ときて。ふわってして。 じん、とかんじて。 夢中遊泳の、その先にあるもの。 ぜひ、見届けてみて下さい。
折原。美奈。ナツ。ミィ。 あたしはいったい、どれなんだろう。 あなたは、あたしが『髪を切る』と 言ったら、なんていうのかな? 切るな。それとも、切らなくていい? …本当は、『切れば』というあなたに 一番、『切るな』と言ってほしかった。 *** 毎度のことながら、 かなさんに尊敬の念を覚えます。 どうしてこんな物語が書けるんだろう。 どうしてこんなに人を引き込む物語を 作ることができるんだろう、と。 この物語の結末。 美奈津が、美奈津のままで、 幸せになれることを願います。
結婚したはずのうのちゃんが、 ある日、リコンして私の家に帰ってきた。 電話じゃ、『離婚したの』って、 過去形で言われて。 私といえば、 彼氏とキスしたばっかりで。 だけど、好きなはずの彼氏のことを、 許せなくて。 …無償の愛って、なんなんだろう。 あげる分だけ、返してほしい。 そう思うのは、他人だからなのかな。 *** ページ数も少なく、短編の類に入るのに、 内容はギッシリと重くて。 気づけば時間を忘れていて、 明日学校なのにどうしようって、 困っています(笑) …でも、そのくらい、この物語の世界に 入り込んでしまいました。 無償の愛ってなんなのか。 家族じゃない他人を、本気で、 損得感情なしに愛することができるのか。 そんなことを考えている方に、 オススメです。
幼い頃からずっと側に居た、 親友以上の仲、夕凪と潮音。 いつも一緒で、離れることなんか 考えたこともなかった。 しかし、ある約束を破ってしまってから、 夕凪は潮音に冷たくなってしまって…。 そこから綴られるのは、 互いを想い合う優しさの物語。 海の香る砂浜で、 海色ドロップを舐めながら──。 *** 完結おめでとうございます! 毎日ずっと更新はまだかな、と 待ってしまう、素敵な物語でした。 後半は荒れた波ばかりが 押し寄せてきましたが、 そんな海を乗り越えた潮音と夕凪に、 思わず視界が潤んだり。 ぜひ、ご一読ください。