和宮 樹さんのレビュー一覧

★★★★★
2013/05/08 10:00
その絶望は神様からの、ご褒美

愛する人に愛されたいという、人のごく自然な感情。 自暴自棄になっているようでいて、それを真っ直ぐに乞い、求めたゆえの結末。 散り乱れる様に人がどうしてか美しさを感じるのは、命の儚さと愛おしさに気付くから。 アスファルトを覆い尽くす程に幾層にも降り積もる金木犀の命のように。 これは、彼女たちが繰り返し重ね合い、すれ違い、そして築き上げていこうとする愛に、神様がほんの少し“イタズラ”という名のご褒美を下さった物語。 扇情的な展開とは裏腹な、はにかむように楚々と微笑む“小さな乙女”の可愛らしさを、是非ともご堪能あれ。

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2013/04/24 11:20
平凡で非平凡な最幸の日

幸せであることをひとつの形にして、感謝と誓いを親しき人々に届ける日。 それはその日限定の想いではないから、とんでもない非日常であっても、ごくごく普段からある、とても平凡なもの。 アットホームというよりも、“ホットホーム”と称する方がしっくりくる、素敵な姐さん女房の燦々と輝く日々の序章です。 ご結婚、おめでとうございます。 おふたりが“走り抜ける”人生に、極上の幸がありますように。

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2013/04/23 11:56
感受性の育て方

例えば桜の絵を描くとする。 花びらを何色で塗るだろう。 ピンク? 青? 橙色? はたまた、黒? では、どれが“正解”だろうか。 結論をいえば、それが“悪ふざけ”で選んだのでないかぎり、どれも正しい色なのだ。 この話は、それにつきる。 感受性にたったひとつの答えはないのだ。 それを、どう汲み取るか。 これは、そのことを見つめ直すにちょうど良いお話です。

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2013/04/14 03:45
実にいぶかしい作品

じとり、と纏わりつくような文章に息苦しさを覚えつつも、貪るようにして行間に爪を立て、食い入り読み込むのは“ぼく”の感情をどのように受け止めればよいのかがわからないため。 激しい焦燥感と、後ろめたさを醸す後悔。 そして、誰ともなく告げる自虐。 あえていう。 これは―― ――『純愛』だ。

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2013/04/05 12:30
不器用な想いをチョコでくるんで

ひた隠ししている想いをチョコの甘さに託して、熱い気持ちはウィスキーに見立てて。 ほろ酔うその頬がまるで自分への恋の火照りならいいのにと、心のどこかで思いながら。 そんないじらしい男の子の姿に、ちょっと酔いしれてみませんか?

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2013/03/29 11:16

人は生きることに意味を求める生き物であり、そんなものを求めるのはまた、人だけである。 風がやさしいであるとか。 花が美しいであるとか。 笑顔があたたかいであるとか。 それはきっと、誰かと胸の内を共有したいからなのだろう。 そしてそれは、声に出さなければ誰にも届かない。 何もいわずとも伝わることがあるのは、それまで相手に伝え続けたものが降り積もって、ようやく叶うものなのだ。 そんな当たり前だけれども、忘れがちで、しかし大切なことを今一度気付かせてくれる物語です。

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2013/03/26 13:33
夢現

それは泡沫の夢の如く。 もしかするとこれは現実ではなく、主人公が渇望のすえに見た幻想に過ぎなかったのかも…… そんなことを読了のときに感じました。 人は誰かに認めてもらいたいもの。 痛ましいまでの想いに溢れた本作は“小説”という枠だけでなく、人であればどこかで抱き続けているもののように感じます。 何を成すことが“自分”であるのか。 それを見つめ直すことの出来る物語です。

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2012/06/08 02:09
明日はアナタが

“非日常”が背中を押して、いつもより少しだけ大胆に。 心配と、愛情と、ほんのちょっぴりの、悪戯心と。 彼には申し訳ないけれど、なんとも愛らしい“秘密”の物語。

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2012/06/08 00:48
悲哀を噛みしめれば、陽愛となる

哀しみの中で育んだ愛は、その裏っかわに“罪悪感”というやつをこびりつけていて。 だからこそ、その特別な感情をさらなる特別で覆い隠してしまいたくなる。 その愛がまぎれもないものだと信じたいから。 そんなことに、意味などないと知りつつも。 木洩れ陽のようにあたたかな愛は、哀しみを呑み込んだときに訪れると。 本当は知りつつも。 そうすることを、止められない。 なぜなら、僕らは“弱い”ゆえに、惹かれあったのだから……。

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2012/06/08 00:35
そして僕はこのもどかしさを繰り返す

毎度のやりとり。 『進展』の後ろ髪に触ることすらできず『不毛』を繰り返す情けない僕。 かといって逃げることも出来ず。 明日も、その次も、これからも僕は繰り返すのだ。 まっさらな伝票に文字が書き込まれていくように。 まっさらな彼女に僕の欲望を刻み込む、そんな妄想を。

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2012/06/07 23:40
握りしめたりなんて、しない

力強いのはその形だけでいい。 “握る”なんて無粋なこと、今は望まない。 絡めるくらいが、包み込むくらいが、這わせることくらいが──丁度いい。 貴方の操る“指(マドラー)”で、とうの昔に私の心は十分に、かき乱されているのだから。 これ以上の刺激は、この恋の味を悪くするだけ……。

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2012/06/07 03:37
予想のひとつ“奥”

随所に、しかしさりげなくみられる読者の予想のひとつ“奥”を行く表現の巧さにどきり、とする。 腑の向こうを“小突く”ような言葉たち。 それは我々に物語に漂う香りのさらに奥の方を感じ取らせる。 なるほど、これが「琴線に触れる表現」なのだろう。 そして1対1で進めないところが、主人公たちの心の機微をいっそう際立たせている。 お見事。

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2012/06/07 02:34
貴方はとても卑怯なのです

主導権を放棄しているかのような立ち振る舞いなのに、しっかり心の手綱は握られていて。 彼の唇が震える度に、私は全身が震える。 貴方ほど清廉で、“いかがわしい”存在はいない。 下着よりも先に、貴方の唇を身にまとわなければ生きてなどいけない私にもう、逃げ場なんて、ない。 もとより、逃げるつもりはこれっぱかりもないけれど。

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2012/06/07 02:21
美しい指には夜がよく似合う

JAZZYなやりとりの中で穏やかに流れるクラシカルな音楽は、とても心地よく。 何よりも、作中の2曲は美しい指に実に合う。 作者、わかってるなぁ。 物語の始まりのような、終わりのような不思議な雰囲気の中、読者はふと、この“曲”の続きを欲しがってしまうことでしょう。 追記 感想ノートの作者コメントに、爆笑せざるをえなかったwww

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2012/06/06 04:27
「愛してみろよ」と彼の瞳が語る

駆け引きの勝敗は最初からついていたのだ。 彼がネクタイを緩めるよりも、ずっと前に。 大人の雰囲気たっぷりに。 けれどぎこちなく取り繕う様は“初めて”の少女のようで。 ほんの僅かな動きで魅せる場の演出が実に見事。 読み終えて「っは……」と知らず知らずひそめていた息を吐いてしまうのは私だけではないでしょう。 じっくりと言葉を追うと彼女たちの“背景”も垣間見え、いやはや、読み応えもたっぷりです。

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2010/05/14 12:47
ブローイング

絵画の技法に『ブローイング』というものがある。 カンバスの上に絵の具をたらし、それに息を吹きかけて描くという技法。 この作品はそれを思わせる。 様々な原色がカンバスにぶちまけられ、時には叫び、時には笑い、時にはささやき、時には嗚咽をもらす。 そこから生まれる“息”が描き出す大胆で、けれど繊細なひとつの物語。 ぶつかり合いながら、混ざり合いながら、必死に何かを作り上げようとする彼らの姿に読者はきっと熱い想いを胸に抱くことでしょう。 そして、こぼれる吐息。 さぁ、アナタもこの素敵な世界に加わってみませんか?

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2010/04/22 14:05
五線譜越しの記憶

やわらかな音をふうわりと耳にするような語り口で進む、少し切ない物語。 口にする以上に分かり合えていたのはきっと五線譜の上に彼女たちのすべてが表れていたから。 そして一風変わった物語の描き方が絶妙で、楽譜1枚隔てた視点で描かれていたからこそ、この感動があるのでしょう。 これが単純な1人称であったならばこれほどのカタルシスは生まれなかったに違いありません。 まさにda capoしたくなる作品。 ぜひ皆様ご一読、いやご一聴下さいませ。

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2010/04/05 15:24
出逢うことは

出逢いとはつまり別れの始まり。 だからそれまでの時間を大切にして欲しいという作者の願いが詰まった作品です。 人は、わかっているはずなのにいつの間にかいつまでも今が続くと思い込んでしまう生き物。 けれども時間は成す術もなく、無情に流れています。 それをただ痛々しいだけのものにするか。 それともやさしさをはらませることが出来るか。 それはひとえにあなた次第。 不思議な世界を通して教えてくれるとても当たり前で、けれどとても大切なこと。 あなたは今を、どのように過ごしていますか? 表現の随所に作者の個性が見受けられ、まさに『冬馬 雪』をギュッと詰め込んだ作品。 ぜひご賞味あれ。

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2010/01/25 10:36
世界は君で溢れてる

出逢いは点で、そこから1歩踏み出すことでそれは線となり、人は人とつながることが出来る。 そんな勇気を優しい音色と共に教えてくれるのが本作。 短さを感じさせない物語の深さ、感動が心に染み込む速度。 それらがとても程好く、私たちにあたたかな時間を提供してくれます。 そして何より携帯小説の作家にも、読者にも夢のあるお話。 ぜひ1度ご賞味を。 そのとき、あなたの心にはどんな音が響くでしょうか──

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2009/12/18 00:44
その1歩こそが、奇跡

突然訪れる運命的な偶然は、ただ触れるだけでは舞い落ちた雪と同じで、瞬きする間に消えていく。 それを運命“的”ではなく“運命”とするには踏み出さなければそれは成りえない。 1歩を踏み出したその瞬間に、それは奇跡という輝きを放ちながら私たちの行き先を照らしてくれるのです。 それを本作は主人公の雪を通して私たちに教えてくれます。 クリスマスを前にして、まだ勇気を出せずにベッドの上のプレゼントを眺めているアナタ。 これを読んで見てください。 きっと、勇気のきっかけになる灯りがアナタのこころに燈されるはずですよ。 さぁ……踏み出しましょう。

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