馳月基矢さんのレビュー一覧
学園という世界は格差によって成り立っている。 成績の順位が貼り出され、劣っていれば見下され、救いの手など差し伸べられない。 ヒエラルキーは絶対的で堅強、且つ普遍的。 その構成員は、己の役割を果たさねばならない。 ……本当に、そうだろうか? 成績が劣るあの人には、何の価値もないのか? テストの点数で測れない特技や個性は、嘲笑の対象か? 格差を超えた人間関係は、形成されてはならないのか? 本当に、ヒエラルキーこそが学園の価値観のすべてなのか? 疑問を胸に抱いたなら、 心に秘めた思いがあるなら、 言葉をぶつけたい相手がいるなら、 自分自身と本気で向き合いたいなら、 語って伝えよ。 伝わるとは限らない。 全部を壊せるとも思えない。 それでも、伝えたいと動き出したときから、確かに変わり始めるはずだ。 そんなクーデターを、私も起こしてみたかった。 胸の熱くなる青春小説です。
見上げるほどの長身、真っ赤な髪、端正な顔はいつでもニラミを利かせていて、口を開けば、脅しつけるような言葉が飛び出す。 「眠れる赤龍」の龍生を怖がらない人間はいない。 というほどの最恐ヤンキーは、「あたし」こと鞠奈の幼なじみでした。 最初は、龍生のインパクトに恐れをなした「あたし」。 でも、だんだんと、高校生になった龍生の素顔に気付くようになって……。 鞠奈がクラスの男子と仲良くしゃべっているとき。 公園に捨てられた子犬を見付けたとき。 鞠奈の母親に挨拶をするとき。 英語教師に追試の警告をされたとき。 そして、鞠奈が危機に陥ったとき。 硬派な不良を装う龍生の最強のギャップに、胸キュン必須です!
魔道士を目指す研修生のシレンは、ある日突然、謎の新入り・シルヴァイラとペアを組まされることになる。 フードを目深に被った無愛想なシルヴァイラと、どうにか仲良くなろうと苦労するシレン。 すげなくあしらわれてばかりの毎日にうんざりしていたところ、シルヴァイラの「正体」を目撃してしまい、その過去に触れて……。 「心」に関係する魔法において桁外れの力を持つシルヴァイラと、次第に感応力を高め、自身の立ち位置を見出していくシレン。 人の心の内側に直接触れるシーンは迫力があって、心というものの在り方を感じさせられます。 シレンの価値観の変化、シルヴァイラをとらえる過去の呪縛、レイジュラが抱える苦悩。 それぞれの心の成長が描かれる、未来への旅立ちの物語です。
四歳で母を亡くした達也。 父と二人の生活は次第に荒んでいき、貧しい身なりのために酷いいじめを受けた。 救いとなってくれたのは、同い年の百合子と靖之。 けれど、子ども時代のささやかな平穏は、達也がその町を離れた十八歳の日に、完全に幕を閉じた。 二十歳になり、再会した達也と百合子と靖之。 達也は「蛍の森」に迷い込み、どこか自分と似た少年・アキトとともに、願いを叶えるため彷徨い歩く。 一方、達也への罪の意識に苛まれ、男からの依存を引き受けてしまう百合子もまた、追い詰められていた。 アキトの正体、達也の父が遺した思い、母の思い出、祖父母の後悔。 さまざまな人々の心に触れた達也が少しずつ前を向いていく様子が、痛々しくも力強く、胸を打ちます。 また、田園風景の描写はとても美しく、色鮮やかでノスタルジック。 切なくも希望のあるラストは躍動的で、映画を観ているかのようでした。
飄々として 颯爽として 道徳的な正義を持ち合わせて 合理的な判断で行動して 誰かになびくこともなく 誰かにへつらうこともなく 格好いいように見えた君。 孤高な存在に思えた君。 そうではないのかもしれない、本当は孤独なのかもしれないと知ったとき、どうしたらよかったんだろう? ただ憧れるだけじゃなく、だからといってベタベタ触れることもできない。 その距離がとてもリアルだと感じました。
現実に嫌気が差して、ネットを繋ぐ。 そこに立ち現れる音楽、小説、画像、映像。 あるいは誰かの他愛ないつぶやきや日記。 過去も現在も蓄積して繋ぎ、空間も国境も超越して繋ぐ世界に、私は、貴方は、彼は、彼女は、どれだけ親しみ、楽しんできただろう? 励まされ、癒されてきただろう? 中傷され、傷付けられてきただろう? 夢を見て、夢を叶えてきただろう? ある出来事をきっかけに歌わなくなった天才的ロックシンガー、桜沢悠斗。 彼への取材を担当することになった猪突猛進な出版社記者の畑田は、桜沢が抱き続ける音楽への情熱を見て取った。 桜沢に再び歌ってほしい。 そう願う畑田は、桜沢と「彼女」が信じたモノを信じて行動を起こす。 「彼女」と畑田の願いは、未来へと繋がるのか。 最後まで目が離せない物語です。
ケータイ小説を書くことが趣味のOL、渡辺未也は、運命の恋に憧れていた。 凛々しく戦い抜く騎士のような男性なんて現実にはいないのだ、とも思いつつ。 ところがある日、人気俳優のロケ現場の近くで、未也は出会ってしまった。 舞台出身で売り出し中の若手俳優、高遠裕也と。 恋に落ちたら一直線。 彼のファンクラブに入るところから始まって、彼の舞台を観に行ったり、彼を勤務先である企業のCMに起用できるよう頑張ったり。 周囲の人々の応援や運命的な偶然も重なって、だんだんと近付いていく距離。 それとともに、自分の道を見付け、突き進んでいく未也の姿が一生懸命で、応援したくなります。 登場人物みんなが温かく、生き生きとしています。 温かな読後感に包まれる作品です。
「普通」に埋もれて生活する「あたし」 自分は「普通」なんかじゃない もっと「特別」な存在なんだ そう叫びたいのに 爆発しそうなくらい叫びたいのに くだらないと感じる毎日 閉塞感と自殺願望 だけど何もできない 堂々巡りの閉塞感と自殺願望 「生きる意味」を問いながら、もがいてみようとしながら、吹っ切れない現実に嫌気が差す。 そんな身に覚えのある苦しみや叫びが、歯切れのいいテンポの言葉で綴られています。 ふらりと授業を抜け出した屋上には、普通っぽく見えて普通じゃない児島がいました。 彼の言動に、思想に、度肝を抜かれてください。 そして、あなたなりの「生きる意味」に触れてみてください。
曇っていて暗い。 テストが終わった。 開放感に弾ける同級生たち。 それを、どこか離れた場所から眺めているかのような「ぼく」。 突如、出現した威圧。 誰かが思わず舌打ち。 順繰りの犯人探しが始まった。 まるで引き金が引かれたかのように、「ぼく」の体が動いた。 たぶん、そんなことをしても、学校という日常は何も変わらない。 だけど、そこで目にする赤い色は本当に鮮やかだろうと思う。 「反逆」してみたいと心の底で望む、若い貴方へ。 かつての「反逆」を胸に秘めた、大人の貴方へ。 胸がひりひりするほど共感できる作品です。
行き先も決めずに電車に乗って、降り立ったのは田んぼだらけの小さな町。 レトロな駅舎、円筒形のポスト、一面の田んぼ、青空、山、風。 鮮やかな風景を一眼レフで切り取りながら、なんとなく足を向けた先で、「あたし」は「少年」と出会う。 名乗り合うことすらしない二人の間には、さり気なくて爽やかな、名前の付けようのない関係が築かれます。 繊細で切実な心情を吐き出す「あたし」。 それを聞いて、「少年」が返す言葉。 逃げ出したい衝動に駆られてばかりだった思春期を思い出しながら読み終えたとき、開放感を覚えて、ほっと息をつきました。 今でも私は、行き先を知らない電車に飛び乗りたいのかもしれません。
「漢字を理解しづらい」という学習障害を持つ、ののか。 言葉の意味がわからず、他人との会話には人一倍の努力や苦労が必要で、それでも上手に学校生活を送れない。 絵を描くことは好きだけど、時間制限のある美術の授業は苦手。 父は社長、母は社長秘書。 引きこもりの兄や夢見がちな姉の分まで、母はののかに期待する。 母を嫌いなわけじゃない。 でも、期待が重すぎる。 17歳の誕生日、ついに日常生活から逃げ出したののかは、宮大工のタコさんとキツネさんに出会った。 タコさんの優しさと厳しさ、キツネさんの生きる覚悟を知るののか。 二人のトモダチは、ののかの心を解き放つ。 ののかに正直な言葉を連れて来る。 繊細な心を抑え込み、傷付き続けたののかが、旅の行く末にどんな道を選ぶのか。 上手に生きられない貴方に、ぜひ読んでいただきたい小説です。
「虫ほどかわいいものってなくない?」 「メイクとヘアアレンジで騙されちゃう男ってどうなの?」 「コオロギ柄の服とか、すごいかわいい!」 利発な美少女であるにも関わらず、虫マニアでマイペース。 恋バナよりもラブソングよりも虫の研究が大好き。 男子でさえドン引きするような毛虫の集団に、一人で目を輝かせる。 ニックネームは「虫姫」。 こんな女の子、21世紀の常識から考えても、ちょっと変わり者すぎます。 ここで描かれる虫姫は、現代の女の子ではなく、平安時代の短編集『堤中納言物語』に登場する姫君です。 でも、現代の尺度でも「変な子!」と感じられるから、虫姫のかわいらしさが際立ちます。 お相手となる彼もまた、相当の変わり者。 突き抜けた変人カップルの恋模様に、にまにま必須です。
傷付けられたくないし 傷付けたくない 弱い自分ではいたくないけど 自分のままを受け入れてほしい 心が痛いのはイヤなのに 自分を責めずにはいられない きっと誰も本当は悪くないんだから 誰もが笑ってすごせたらいい キレイゴトを望む心は 繊細で正直で素裸で 誰かに笑い飛ばされるかもしれないけど 素直なままのあなたでいてほしいと ひそかに願うのです 優しいあなたでいてください
「私」は15歳、最近マイブームの一人称は「ウチ」、キレイな髪はちょっと長め。 父は緩やかに家出中、母はピリピリ帯電中。 いつのころからか、泣かなくなった「私」。 笑うことも怒ることもできず、体調が悪くなるから教室には行けない。 保健室登校の毎日で、話せる相手は保健の先生と幼なじみの正彦くらい。 家出中の父に会いに行ったとき、父の元恋人・ナツの手掛かりをつかむ。 ナツは素直で泣き虫で、それでいて大人の女性だった。 ひょんなことから仲良くなり、旅行に出かける「私」とナツ。 まるで空のようなナツは、あくまで凪いだ海であろうとする「私」に、生きるヒントをくれる。 「私」はどんな心を押し殺したがゆえに、体に変調をきたしたのか? 隠し続ける感情を誰にぶつければ、心の鎖は解き放たれるのか? ナツの手紙が告げる最後の一行が、「私」と彼の間に結ばれた友情の切なさと強さと深さを物語っています。
緑の髪と赤い瞳のエルマ。 年若い娘の身でありながら、流浪の民アルの族長 聡明さと繊細さ、責任感の強さを併せ持つ、放っておけない可憐な少女。 エルマの人生はアルの民とともに、平穏に、自由に、素朴に、続いていくはずだった。 それが唐突に崩れたのは、シュタイン・ルイーネ両国間に結ばれる「婚姻による和平」に危機が訪れたため。 エルマは、アルの民の利権を保証することを条件に、シュタイン王城での危険な役割を買って出た――。 2人の王子の爽やかさや素直さとは裏腹に、王城に渦巻く薄暗い野心。 本当は、欲に目がくらんだ悪人なんて決して多くない。 誰もが自分の大切なものを守りたいだけ。 なのに、すれ違って、ぶつかり合って、気付けば「誰かの大切なもの」をこの手で奪ってしまっている。 悲しみや痛みを乗り越えながら、誠実に前へ進んでいく。 力強く、丁寧に織り上げられた歴史ファンタジーです。
光太と智恵。 まるで高村光太郎・智恵子夫妻のような、素敵な名前の二人。 でも、名前の印象とは真逆に、その出会いは切なくもないし純情でもなく。 再会も再々会もまた、何とも言えないギャップや違和感に満ちていて。 お高く留まった智恵の言動に、どことなく、もろさや繊細さが垣間見えます。 光太や後輩女子たちとの関係の中で、智恵自身も気付いていなかった自分の本心に少しずつ近づいていく過程が素敵でした。 何を考えているか不明な光太。 非常にどうしようもない男。 だけど、妙にかわいくて、放っておけません。 一癖あるイケメンが「コミカル」且つ「キュート」、さらに時々きちんと「カッコよく」描かれるのは、汐見ワールドならではの魅力です。 純文学作家、光太の書く独創的で幻想的な文章世界が、二人きりの公園に現れるとき。 キラキラ輝くような風景とともに、光太と智恵は、何を思うのでしょうか。
平和が訪れた現代だからこそ、自分に正直に生きられる。 生きる道さえ歪められた戦時中の彼らに恥ずかしくないように、自分に嘘をついてはいけない。 精一杯、自分の夢を大切に、生きなければならない。 両親の都合や感情や思惑に左右されてしまう現代っ子の涼。 特別な体験を経て、真剣で誠実で不器用に生きる百合。 ありふれているようで、とても特別な二人の出会いが、真夏の光のように鮮やかに描かれています。 前作『可視光の夏-特攻隊と過ごした日々-』からの流れで読むと、惹かれ合う魂の運命が切なくて、同時に優しくて希望に満ちていて、やり切れないような気持ちにもなりました。 二人の未来が幸せなものでありますように。
行きつけのレコード店の次女、三春に一目惚れした太。 一直線に追いかけてくる太を突っぱねる、自称一匹狼の三春。 二人きりの店番に、映画デート、ストレートすぎる「愛のことば」の嵐。 でも「DERRINGER」みたいに危険な彼女は、太をにらみつけるばかり。 落ち着くところに落ち着かない、一筋縄ではいかない、青春模様、恋模様。 いい感じにぐちゃぐちゃのロックテイストが素敵です。 十二月の雪の日に垣間見える「未来の破片」に胸キュン。 もっと読んでいたい、もっと二人がぶつかり合うところを見てみたい、と思う作品でした。