夢雨さんのレビュー一覧
どうにも拭えない汚れのような過去がある。 だから、逃げてきた。心の底から死を願った夜があった。 でも、どうしようもなく生きたくて、救われたくて、前を向きたくて、 ――そうして、“きみ”と、出会った。 これは、そんな凛花と藤堂の物語。 だけど、登場人物の誰ひとりとして取りこぼさず、やさしく拾いあげられていく様が、本当に見事でした。 『本当は誰かに見つけて欲しかった』 きっと、そう思っていたのは凛花だけじゃない。 藤堂も、智也も、有愛希も、柚寧も、大河も、累も、そして栄介も、みんな、みんな。 この世界は、ひとりぼっちどうしの寄せ集めで出来ている。 でも、だからこそ、ひとりぼっちとひとりぼっちが出会い、世界は丸い形に変わっていくのだと、信じたくなるお話です。 素晴らしいものを読ませていただき、本当にありがとうございました。
あの人は輝いている。世界を照らす金色のように。簡単に手を伸ばせないほど、遠い場所で。 だから、ずっと、きみのようになりたかった。 まったく違うようでとても似ている、ふたつの淡い憧れがじわりじわりと近づいては、少し離れて。また、もう少し、近づいて。 いつしかお互いのためになにかしたいと願うようになっていく、ふたりのその姿こそが、なによりもまばゆい青春そのものでした。 『私が、光を当てて、あたためたい』 凍えそうになっていた朝陽の心の大切な場所を、見つけてあたためてくれたのが、とても柔くて、とても強い、光莉で本当によかった。 たくさんの『好き』の気持ちがぎゅうぎゅうに詰まった、甘くてすっぱい、苦しくて愛しい、キュンなお話です。
「こっちはわかりたいと思ってんだよ」 そのまっすぐな言葉が、完結していたふたりの世界を揺らしたのを感じたとき、ひとつの想いが閉じ、もうひとつの想いが走り出したのだと、たしかに思った。 男子ふたりと、女子ひとり。 いびつな三角形を作りながら、小さな嘘をくり返し、自分を守って、相手を守って、誰かを守って、過去を、そして未来を守っている。 それはどうにももどかしく、切なく、悲しいかたちをしていた。 そして同時に、なによりも愛しい三角のかたちをしていた。 だからこそ、彼にとっても、彼女にとっても――そして、彼にとっても。 たしかに抱いた美しい毒のような気持ちが、愛する誰かのためだけでなく、自分のためにも、どうか幸福に作用してくれれば、と願ってしまう。 決して一筋縄ではいかない三角関係。 3人の描いたそのトライアングルを、わたしはどうしても、とてもかわいい、と思ってしまいます。
暑いし、だからといってクーラーつけると体ダルくなるし、汗かいちゃうし、とにかく夏なんて大っ嫌い! 「俺は好き」 嫌いなところを数える。 ほかのところは見ないようにする。 だって、本当は知っている。 誰より努力していること。 実はお人好しなことも。 それから、女子から人気があることも。 だから、嫌いなところだけ、数えてきた。 意地っぱりなふたり。 素直になれない男女の心を、夏の暑さがじわじわ溶かしていく様子が、甘酸っぱくて、かわいい。 11ページにぎゅうぎゅうに詰めこまれた、夏のかわいい全部に、心まるごとつかまれました。 来年の夏も絶対に読み返したい、夏を大好きになれるお話を、ありがとうございました。
ミルクティー色のふわふわの髪、笑うと細くなる長いまつげの瞳、成績はトップで、おまけに生徒会長。 見た目も中身も文句なしの“学校の王子様”に、片想いをしている。 そんな彼の“本性”を知ったとき、恐ろしくて、失望して――そして、本当の恋が始まった。 『俺に理想ばっかり押し付けて』 冷たい声としゃべり方でそう言った彼を、最初に見つけたのが彼女でよかった。 決して激しい熱じゃない、臆病な温度で氷をゆっくり溶かしていく女の子でよかった。 ドラマチックな奇跡も、ありえないファンタジーも、鈍感すぎるヒロインも存在しない、等身大の恋のお話。 重なったいくつかの偶然と、誰かが誰かを想う気持ちと、ほんの少しの勇気が混ざって溶けた氷、その水たまりの真ん中で、最後はきっとやさしい気持ちを見つけられるはずです。 登場人物みんなまるごと抱きしめたくなるような、愛くるしいお話をありがとうございました。
幼いころ、溺れかけていたところを助けてくれた“誰か”。おとぎ話のなかでしか知らなかった、美しい尾ひれを持った“彼女”のことを待ち続けている。 『おれも見たことあるよ』 ばかげた神話のような存在を探し続ける少女・佐波と、たったひとりだけそれを信じてくれている少年・七瀬との、10年目の夏がいよいよ始まった。 ふたりの織りなす何気ない会話が愛しくてまぶしい。 そのなかに散りばめられたいくつものヒントをたぐり寄せ、真実にたどり着いたとき、ふたりの10年間が穏やかな波に帰っていくようで、美しかったです。 泳げたら会えなかった、でも、これからは泳いで会いに行く。 少し関係が変わっても、きっとずっと変わらないであろう佐波と七瀬だけの夏を、想像せずにはいられません。 夏の終わりに読みたい現代版・人魚“姫”です。 素敵なお話をありがとうございました。
大好きな人が大好きだった曲。 だから大好きになりたかったのに、いっしょに大切にしたかったのに、思い出すたびに苦しくて。 聴かないようにしてた。遠ざけてた。 それでなくとも、ずっと隣にある記憶のせいで、どうにも思い出してしまうから。 『だけどやっぱり、一緒に幸せになりたかった』 好きな人が幸せならそれでいい、どんなにそう思っていたとしても、誰だっていちばんに願ってしまう気持ちだと思う。この言葉に胸がぎゅーっと苦しくなりました。 凛冬が好きだった曲と、秋季のキライになりたい曲。それがこれから、何度だってふたりを繋いでくれるのかもしれない。 好きな人の、好きなもの。多かれ少なかれ、きっと誰もが体のどこかに秘めている。 キライになりたい曲がある人も、キライになってしまった曲がある人も。きっとなにかをぎゅっと大切にしたくなる、かわいくて切ないお話です。
つらいとき、傍にいてくれた人。話を聞いてくれた人。優しく背中を押してくれた人。 ただ、そういう存在に惹かれただけ。素直に好きだと思っただけ。 あらゆる場所にあらゆる“想いの形”があり、いまではその多様性がかなり受け入れられてきているけれど、どうしたって許されない恋はまだあるんだと思う。 綾と優も、世間一般に見ればきっとそうだった。たくさんの壁や障害が目の前に立ちふさがり、もしかしたら必要以上に苦しい思いをしたのかもしれない。 『わたしは他人に認められるために恋をしているわけじゃない』 この言葉がとても胸に刺さりました。 始まり方と終わり方がとても好き。こういう未来を選択したことに作者様の想いがじんじん伝わってきます。 なにも特別なことなんかない。 世界で一番似ている赤色を持っている人を好きになっただけ。 そんなふたりのありふれた、だけどとても大切な恋が、なにより愛しいお話です。
マナとカイとヤヨ。 3人はずっといっしょに、同じように光って、さんかくの星座をつくっていけるはずだった。 だけど同じ輝きじゃないから、どうしようもなく想ってしまうのだ。 違うから、どうにも惹かれてしまうのだ。 マナと同じように光ることのできないふたりだけが、それをずっと、いままでも、これからも、永遠に、秘密のように、知っている。 たった8ページに、とてもいびつな、そして透明な気持ちが、ぜんぶぜんぶ詰めこまれていました。 みんな、やさしい。やさしいから、傷ついてしまった。やさしいから、傷つけてしまった。 カーテンを開けてふと星空を見上げたら、置いてけぼりにしてきた気持ちを思い出させてくれるような。 ちかちかさみしくまたたいている、夏の夜の物語です。
いつ死ぬかわからない、生きている意味なんかない、そう思いながらただ呼吸をくり返すだけの希愛の前に現れたのは、不器用でいじわるでやさしい、“不良”みたいな男子。 正反対のふたり。ぜんぜん違う世界を見てきたからこそ、おたがいのことを分けあい、知っていくうちに、どうしようもなく惹かれて。 それでも用意されている残酷な運命に抗おうともがく幼い姿は純粋そのもので、こんなに美しい気持ちが世界にはあるのだと何度も胸を締めつけられました。 「人は幸せになるために生きてるんじゃない。誰かを幸せにするために生きてるんだ」 誰にとっても宝物みたいな言葉がたくさん散りばめられていたけど、わたしはこの言葉が大好きです。 生きるって、なんだろう。 そう思ったとき、きっとこの物語はやさしい温度で寄り添ってくれる。誰にも同じやさしさで、傍にいてくれるはずです。
近くにいたからなんでも知ってるけれど、近くにいすぎていちばん肝心なことが見つからない。 相手の気持ちだけが、よく見えない。 だから空回ってふりまわされちゃうし、はからずともたくさんふりまわしちゃう。 そうやって、近づいては離れ、離れては近づいてをくり返すふたりに、何度もだもださせられたことか…! 大人ぶって余裕ぶっている策士のはずの朱里くんが自分の策にまんまとハマってしまう様は“年下男子”そのもので、3日間の大きさを彼といっしょに痛感しました。 そう、たった3日。だけどその3日が、ふたりにとってはとても大きな壁となり、そして最後には、強く背中を押してくれる。 結局必要なのって生まれた年でも想いの年数でもなんでもない。たったひとつ、大好きっていう、シンプルな気持ちだけ。 そんなふうに思わせてくれる、“幼なじみラブ”、そして“両片想い”のすべてが詰まった、完全無敵のじれきゅん!です。
両親の離婚、身に覚えのない噂、『見えないなにか』のせいで身動きのとれないモナの前に、きらきらと輝く気持ちは突然落ちてきた。 最初は面倒だと思っていた。大嫌いなやつだと思っていた。でも、彼だけは本当の自分を見てくれる。自分でさえ知らない自分を見つけて、好きだと無邪気に笑う。 気持ちの強さだけで上手くいく世界ならどんなにいいだろうと、何度も胸を痛めました。 彼らは、なりふりかまわず恋をできるほど幼くもないけれど、いろんなことを諦めて笑うには少し若すぎる。 だから少し、時間がかかってしまったけれど。 思い出の浜辺でもういちど出会えたことを運命のように感じました。 ボロボロの女の子を見つけてくれた男の子の手を、今度は彼女のほうが取って。遠まわりしたぶん、きっともっと、大切にしていけるね。 一瞬の青春、一生分の恋が、ギュギュっと詰めこまれた素敵なお話です。
金髪、ネイル、短いスカート――派手な見た目をしている竹入春日には、そうしなければならない理由があった。 言いたいことが言えなくて。見た目だけで判断されて。いっぱい傷ついて。でも、これまでたくさんのことを諦めてきた春日があとほんの少しだけ頑張ることができたから、彼女の世界は大きく変わったのだろうと思う。 若い悩みを抱えた苦しい気持ち、全員分ヒリヒリ伝わってくる。それでも彼らは何にも代えられない素晴らしい時代を生きているのだとページをめくるたびに思わされる。 そして何より、悪者を悪者のまま放っておかない作者さんに大きな愛を感じました。 友達。勇気。恋。大切なことがあまりに鮮明に描かれているから、少し痛い。それでいてちょっぴりかわいい。とても、愛おしい。 春になるたび読み返したくなる、素敵なお話です。
大好きな人を大好きだと思う気持ち。それに嘘はないはずなのに、胸を張れなくなってしまったかもしれない。昔より、笑えなくなってしまったかもしれない。 それでも頑張って恋をしている強くて弱い女の子の前に、ちょっとヘンな男子が現れる。 強引だけど優しい彼の心に触れるたびに反発しながらも惹かれていくめごと、余裕があるようで全然ない珠理のもどかしい恋模様。 そしてそれを彩ってゆく、小さくて愛おしい、けれど鋭く痛いヒミツの数々。 誰かをめいっぱい愛して、心から大切にするということ、それができることの幸福を、嵐のようにやってきたオネェ男子に教えてもらったような気がします。 読めばきっと誰もが恋をしてしまう。そんな不思議な男の子の大きな愛を、どうか最後まで見守ってほしい。
唐沢隼人が消えた。そして、3人の物語がまわり始めた。 冴えない“僕”と、いつだってクラスの中心にいる橘。ちぐはぐに見えるふたりが夏のなかへ飛び出した瞬間、その長い一日は幕を開ける。 肌に真夏の温度を感じ、目には田舎の景色が浮かぶ。自転車のホイールがまわる音が聴こえる。ふたりの共有した時間が、ページを進むごとにたしかな熱を持っていく。 消えてしまった彼と、残されたふたり。 ハヤトは誰なのか?ヒカルは誰なのか?そして橘はなにを知っているのか。 彼の消えた意味が明らかになったとき、運命の残酷さと、世界の優しさを思い知る。 「いらない明日を捨てに行く」 それは、絶望ではなく、たしかに希望の言葉だった。 絶望を捨て、希望をつかまえたふたりとひとりの生きていく明日は、違っているようできっと似ている。見たこともないような新しい色をしている。 圧巻の物語です。ぜひ、夏のあいだに読んでほしい。
レイラは自分のことを『最低だ』と言うけれど、それは誰よりも純粋な証なんだと思う。 19歳のときに出会って、すべてを捧げてきた。自分の人生が犠牲になってもかまわなかった。それほどまでに愛せる誰かに、人はなかなか出会えないものだと思う。 レイラ、ルイ、そしてリヒト。それぞれがそれぞれの純粋を抱えていて、ただ求めて、でも、手に入らなくて。そうか、純粋って痛いんだって、思い知らされました。 ルイのあたたかな優しさも、リヒトの見えづらい優しさも、わたしは愛しい。そんなふたりのあいだで揺れるレイラの愚かささえ、愛しい。 ずるい大人をこんなにも透明に描いた作品を、わたしはほかに知りません。誰かを強烈に愛してみたくなる、そんな作品です。
ある少年の死をきっかけに、物語は動きだす。 圭太と愛美。そして弘樹。3人はいびつに生きていた。きたない世界に無防備にさらされながら、きたない心を隠して、それでも精いっぱいなにかを想って。 壮大なラブストーリーを読んでいるような、それでいて救いのないサスペンスを読んでいるような、不思議な気持ちでした。誰も悪くない。なのに、みんながボロボロに傷つかなくちゃいけない。胸が痛くて何度も涙がこぼれました。 きたない心、みんな持っていると思う。わたしも持ってる。わたしの好きな人たちだって、きっと持ってる。そういうきたないものをまるごと与えあって、それでも、寄り添いあえたらいいよね。愛しあえたらいいよね。 『きたない心』をあげた先で、ふたりが出会った『きれいな心』を、どうか見届けてほしい。とても痛い、素敵なお話です。
こんなにあったかい愛があるんだなぁと、やさしい涙をいっぱい落としました。 いっちゃんとみとも。惹かれあって付き合ったけど、それがゴールってわけじゃない。一緒にいたらいろんな問題が生まれるし、ぶつかることもある。 でも、みともがいっちゃんを大好きで。いっちゃんがみともを大好きで。それ以上に必要なものがこのふたりにはないんだ。もう、大好き。めっちゃ、大好き。それだけ。それだけで、全部乗りこえられる。 こういうふうに誰かと付き合うことって、簡単なようで、なかなか難しいんじゃないかな。いろんなものが邪魔をして、『大好き』だけじゃがんばれないんじゃないかな。だからこそ、ふたりがいとおしい。ふたりを取り巻く全員がいとおしいです。 この作者さんの書くお話にはいつも、たくさんのかわいいと、痛いと、愛しいが詰まっています。 大好きな人に、いますぐ大好きって伝えたくなる。そんなお話です。