夢雨さんのレビュー一覧
死にたいとか、死んだほうが楽かもとか、そんなふうに思ってしまう瞬間が人生に一度くらいはあると思う。でも、それを救ってくれる誰かや、なにかはきっとある。そう信じさせてくれるお話でした。 美生の痛いくらいにまっすぐな言葉がいちいち胸に刺さります。でも、そんな美生に千速がどうしようもなく惹かれたの、すごくわかる。 誰もが愛されているんだよなあと思わされました。ここに生きて、幸せになる権利を、みんな持ってる。誰かを愛する心を持ってる。だから何度つまずいても立ち上がれるし、その『誰か』のために生きなくちゃいけないんだ。 美生が千速にくれた強さを、画面から直接、わたしももらえたような気持ちです。 とても力強い想いを持った言葉にあふれたお話でした。読後にはきっと、大切な人に会いたくなっています。
つらくて、何度ページをめくるのをやめようかと思っただろう。それでも止まらず、何度も涙で文字が滲み、画面にしずくが落ちました。 百合と同じように、私も戦争のことは社会科や歴史の授業で学びました。でも、それがいかに機械的で表面的なことであったかを、痛烈に思い知りました。 人間が、生きていた。想いをもって、生きていた。彰という名前があった。泣いたり笑ったりしていた。そこにはたしかに、教科書には決して載らない温度があったんです。 70年前。そう遠くもないなあと思います。私と同い年、あるいはそれよりうんと若い命が、誇りを胸に散っていく。なんて愚かな、悲しいことなんだろう。 できればこの国に生まれた人全員に読んでほしい。そして彼らの温度を感じてほしい。きっと読後は、新しい世界が広がっています。
人生に一度の晴れの日。一生の思い出。最高の日。 幸せになることを、お披露目する日。 そんな素晴らしい日を、いろいろあったけど、ふたりで迎えられた。 とにかくもう、うわあ素敵だあ!って思いました。この日、世界中のどんなカップルよりも最高に幸せだったのは、おなつちゃんとカズミくんだったんじゃないかと、本気で思います。 そしてとても泣きました。どんな立場で泣いたのか分からないけど、たった19ページで、泣きました。幸せすぎると勝手に涙が出るんだなあと思いました。 挙式までいろいろあったし、当日もいろいろあったし。でも、それを全部いとしいものに変えられるのは、きっとおなつちゃんとカズミくんだからです。ふたりだからなんでも素晴らしいのです。 こんな夫婦になりたいって思いました。結婚したいって、なんか無性に思わせてくれる、かわいくて素敵な一日の記録です。
大人ラブだけど、そうじゃない。なんとなくそんな感じがしました。 だって、主人公の透子があまりにもかわいいんです。少女がそのまま大人になったような女性なのです。透子に迫りまくる肉食な年下男子・鷹野くんも、彼女のそういうところに惹かれたんだろうなって。 そしてまた、鷹野くんも、かわいい透子に翻弄されて。ずるいです。グイグイきてると思ったら突然、年下っぽくしおらしくなるんだもの。透子が鷹野くんにまんまと陥落されたの、わかります。 大人ラブだけど、そうじゃない。ピュアなふたりの恋物語は、無邪気に運命を信じていたころの延長線上にあるのかなと思います。 大人になってもこういう恋がしたい、いつまでも恋をしていたいなあと思わされる、かわいいお話です。
いろいろ傷を抱えて、つぶれそうで、自分を大切にできない。 そういうひとって意外とたくさんいるんじゃないかなあと思う。自分じゃどうしようもできない痛みと闘っているひとって。 そうやって、もがいて、どうしようもない女の子が主人公。そんな彼女が出会ったのは、優しくなさそうで本当はとても優しい、大人の男。 降谷がくれるたくさんのはじめては、桜にとってはあまりにも新鮮で、優しい手触りだっただろうと思う。だから泣いたし、惹かれたんだろうなって、すごく納得しました。 この作者さんの紡ぐ、飾らない言葉が、いちいち胸に刺さります。桜にも降谷にも、いちいち共感できる。そうだよ、そうなんだよ、ってうなずいてしまう。それでいて、降谷に胸キュンもさせられる。 降谷と桜のこれからをぜひとも見守りたい。恋人になりきれないふたりが愛おしくて、わたしにもこんな素敵な男性が現れないかなって、結構本気で思いました。
コンプレックスって、きっと誰もが持っているもので。このお話の主人公・ちーもまた、かわいいコンプレックスを抱えた、等身大の女の子。 等身大。最初から最後まで、まさしくその言葉がしっくりくるお話だなあと思いました。 ちーも、泰ちゃんも、ふたりを取り巻くみんなも。みんながそれぞれに、等身大の青春を生きている。キラキラしたものだけじゃない。そこにはほろ苦い胸の痛みも、あふれる涙も、上手く出ない言葉もあって。でも、そんなふうに一生懸命いまを生きているみんなが、愛おしくて仕方なかった。 ごめんより、ありがとう。嫌いより、好き。どんどん変わっていくちーの姿が眩しくて、コンプレックスだらけじゃない、なんて魅力的な女の子なんだろうと思いました。 主人公にはなれないふたりが主人公の、甘酸っぱい物語。ぜひ、もどかしいほどの青春を感じながら、じっくり読んでいただきたい作品です。
ついに始まった新生活。壁の薄いマンション。栄養士の――優しいお隣さん。 読みやすい文章から伝わるたしかな温もりに、胸がきゅっと苦しくなります。無駄な情報がない。だから情景が目に浮かぶ。そして、安藤さんが作るご飯のいい匂いさえ、まるで鼻をかすめるようです。 気付けば、紘と一緒にお隣さんを心配してしまう。彼氏と上手くいっているだろうか、なにか困ってはいないだろうか……。 紘が、安藤さんに知らず心惹かれていた理由がとてもよく分かります。 始まりを予感させる終わりに、とても胸がときめかされました。簡単に始まるわけじゃないんだろう。でも、きっと、ふたりの関係は変わっていく。 ぜひ、温かいご飯をいただきながら読みたくなる、優しくて美味しいお話です。
容姿も学力も運動神経も、ぜーんぶ平均の、ミスター平均値・田中。 まず、言わせてほしい。田中、キミは全然ミスター平均値じゃないよ!ミスター世界一だよ! まどかがまんまと田中に惚れてしまった理由、とっても分かります。 イケメンじゃないのに。俺様じゃないのに。ちょっと強引でちょっといじわるで、それでいてとっても優しい田中に、こっちまでキュンキュンしてしまう。わたしもまどかちゃんと一緒に、いつしか田中に恋をしていました。 コミカルポップな文章なので、最初から最後までぐわっと読めてしまう。切なくて、可笑しくて、きゅんとして。ありのままのスキが、ここにはぎゅっと詰まっているように思います。 不思議な同居生活。だけどそれは、始まりの同居生活。 ミスター平均値がミスター世界一になるまでのプロセスを、どうか見守っていただきたい。
絶対的な自信があるものを失くしたとき、どれほどの絶望を味わうのだろうかと考えても、それってきっと想像すらできない痛みで。 そんな闇のなかを歩いてきた昴の前に、突然舞い降りた真夏という星。 誰かの光になる。それってとっても難しいことだけれど、最高の口説き文句だなって思いました。 真夏の光だった昴。そして今度は、真夏のほうが、昴の星。 繊細で、流れるような文章のなかで、まるでふたりは流れ星のようで。 すれ違って、遠慮して、そうやって少しずつ近づいていく昴と真夏が、切なくも微笑ましかった。 これからふたりは、同じ銀河を歩いていくんだなあ。お互いがお互いの光を頼りにしながら。そしてきっと、お互いを照らしあいながら。 きっと誰もが、誰かの輝きでいられる。 ぜひ夜空を眺めながら読んでいただきたい、素敵な作品です。
つらいことがあったとき、思い出すのはひとりの顔。 幼い頃、サクに魔法をくれた幼なじみが彼女のなかでどれほど大きな存在なのか、きっとわたしの想像を超えることだろうと思います。 つらい経験をして、昔住んでいた街に帰ってきたサクを迎えてくれたもの。昔と変わらない風景と、昔よりも大人っぽくなった、大好きな幼なじみ。それから温かい仲間も増えていて、生きているって素敵だなあと、まず思わされました。 サクはどこか、人間としての感情を欠いているような。そんな印象が、どんどん変わっていく。よく笑うし、照れるし、怒るし、泣くし。 みんなの優しさに触れながら成長していく彼女の姿がとても、とても眩しいです。 これは恋の物語だけど、もっと大きな愛の物語。みんなの優しさの物語。 生きているっていいなあと、心から思いました。 圭都の隣で空をゆびさすサクを、きょうもレイは優しく見守ってくれているような気がします。
笑うことができる居場所と、泣くことができる居場所。それが同じだという人間もいるかもしれない。だけどなかには、違う人間もいるかもしれない。 雅人くんの前で無理して笑う美輝ちゃんは、とても滑稽で、だからこそとても愛しかったです。 そしてそれは、町田さんも同じ。 いがみあって、嫌いあって、ひとりの男を取りあって。よくある話かもしれないけど、そうじゃないなあって。 彼に、笑ってほしい。だけど自分の前で泣いてほしい。ふたりは違うようでとても似ていて、ふたりともが愛しくてたまらなかった。 美輝と目を覚ました町田さんの100年。雅人と美輝の100年。雅人と町田さんの100年。 そして、やっと泣ける場所を見つけられた美輝と、それを不器用に、けれど優しく見守っていくであろう賢、ふたりの100年。 読み終えたあと、彼らの100年が、とても楽しみになりました。
有給をとったのは、失恋した心を少しでも慰めるためのはず、だった。 夏休み、偶然再会した幼なじみ。ちょっと大人になったお互いに戸惑いながらも、離れていた時間を埋めるように、時間の許す限り一緒に過ごすふたり。 探り合いながらも、好きという気持ちが見え隠れしているふたりは、まるで学生のようでかわいかったです。 この作家さんの作品の空気って、どうしてこんなにも優しいんだろう。夢のように優しいけれど、どこかリアリティがある。自分もいつかこんな再会を果たせるんじゃないかって、なんとなく思わせてくれる。すごいなあ。 澪波と聡太。大人になったようで、少年少女ままのふたりの夏。いつまでも胸をきゅんとさせてくれる想いが、ここにはぎゅっと詰まっています。
いつも同じお弁当、赤いつなぎ、そして爽やかな笑顔。名前と、好きなお弁当と、近くのバイクショップで働いていることしか知らないけど。 「あのひとに少しでも近づきたい!」そんな気持ちで教習所に通い始めた真白ちゃん、女の子を代表してるみたいで、かわいくって仕方なかったです。 そしてなんといっても、バイクの知識がぎゅっと詰め込まれていて、圧倒されました。 バイクに乗ってる真白ちゃんはかわいいし、バイクに乗ってる光太郎さんは格好いいし。バイクの免許欲しい!って、絶対に思わされちゃいます。 どの説明も丁寧で、作者さんの思いをとても感じました。 あしたはもう、会えなくなるかもしれない。唐突で強引だけど、そんな想いで告白した真白ちゃん。少しだけ回り道したけれど、そんな彼女の気持ちを受け止めた光太郎さん。ふたりを見ていると、きっといますぐにでも、大切なひとに気持ちを伝えたくなります。
オフィスラブ。設定は王道でありながら、まるでベツモノなのがこの作品でした。 恋をするために職場に来ているわけじゃない。真剣に仕事がしたいし、そうするべき。 周りの冷やかしにうんざりしながらも、一生懸命自分たちの仕事に向き合う杏梨と雅人が、純粋にとてもかっこよかったです。 同じ考えを持つからこそ恋愛に発展しない。でも、だからこそ、惹かれる。 仕事仲間としての好きが、レンアイ対象としての好きに変わるのがとってもかわいくって。 大人だけど、仕事がんばってるけど、恋するのって仕方ないんだなあと思いました。 仕事に疲れた方には是非とも読んでほしい。そして、かわいいふたりにきゅんとして、癒されてほしい作品です。
幼なじみって難しい。それが男女だと、特に。 友達よりも近いけど、恋人とはまた違う、とっても大切な、近くて遠い存在。 そんな奴から告白されちゃったら、どうしよう? 初めて見るオトコノコの顔に、照れたり、焦ったり、泣いたり、怒ったり。幼なじみから男の子の顔になっていくセッチがとってもかっこよくて、かわいくって。そんな彼にどぎまぎするこふじちゃんも、かわいくって。 読みながら、何度も「がんばれがんばれ!」って、応援してあげたくなります。 かなさんがくれる、飾らない、等身大の言葉たちのなかで、彼らは一生懸命に恋をしている。1行目、1文字目から、ぐっと引き込まれます。 幼なじみ?カレシカノジョ? かわいいふたりの今までとこれからを、是非みなさんにも、笑って泣いて、隣で見届けてほしい。
私事ではありますが、わたしにも夢があります。もうずっと変わらない、大切な夢。ぼんやりとしていたそれは、年を重ねるごとにはっきりと見えてきて、明確な道を作ってくれる。 常葉さんが言っていたことって、そういうことじゃないかなあと思いました。 彼は神様で、誰もが願いごとを叶えてもらいに来るけれど。でも、違う。神様はただ、そっと、やさしく見守ってくれている。叶えるのはわたし。そういうことじゃないかなあ。 夢がある人、ない人、叶えた人、諦めた人。この物語で生きている人たちはみんな、色んな気持ちを抱えています。きっと誰かに共感する。きっと、誰もに共感できる。 まだ夢を見つけられていない人も、夢の途中だという人も。 人が、人の笑顔が好きな神様の願いごとを、どうか見届けて欲しい。 円さんのあたたかい世界。そのなかできっと、神様はやさしく微笑んでくれることでしょう。
理想と現実って難しい。 好きなタイプ、譲れないところ、挙げ始めたらキリがないと思う。それは男も女も平等に、病的に。 理想のタイプに越したことはない。でも、きっと、それだけじゃない。 ビールジョッキを飲める相手は誰だろう? 煙草を吸える相手は誰だろう? そんな当たり前に気付いたとき、もしかしたら、物語はすでに始まっているのかもしれませんね。 つま先立ちをやめられる誰かは居るだろうかと、読後、真剣に考えてしまいました。 もしかしたら大切な人は近くに居るかもしれない。あいつかも、あのひとかも? 同じように、彼らのこれからに胸をときめかせました。 いい意味で気だるい、身近な始まり。みなさんも、ぜひご一読を。
大好きなひとを失った。死のうと思った。けれどそんな彼女を救ってくれたのは、夢を失ったひとだった。 心のよりどころが無いふたりが惹かれ合ったのは、きっと自然なこと。隙間を埋めるように重ねた時間は温かく、愛しかったです。 最後まで上手くいかないことだらけだったけれど、だからこそ、誰よりも幸せになってほしいふたりでした。 ふたり寄り添って見る世界は、温かくて、優しくて、美しいはず。 心に隙間を抱えたひとに、ぜひ読んでほしい物語です。少し淋しさを感じる夜に、ぜひ、ご一読を。