「行ってきまーす」 「おー、気をつけてな」 「はーい」 年の離れた男女が玄関先で言葉を交わす、 どこにでもあるような何気ない朝の風景。 だけど。 私たちは親子でもなければ兄妹でもない。 もちろん夫婦でもないし、 婚約関係にあるわけでもない。 そもそも恋人として付き合ってもいない。 私は現役の女子高校生で、 相手は若見え中年の元ヤクザだ。 華の10代と背中に入れ墨のある人だ。 そして、どちらとも他人に言えない過去がある。 生きる為なら何だってしてきた二人。 それでも。 私たちの間には家族と同等、 いや、それ以上の信頼があって、一緒に暮らしている。 《朝倉悠(あさくら はるか)》 見た目は20代の36歳元ヤクザ。今は喫茶店の店長。 面倒見が良く冷静沈着だが、 那月に対しては隠せないほどの心配性。 × 《藤白那月(ふじしろ なつき)》 17歳、高校三年。土日は悠の喫茶店でアルバイト。 悠に対しては天真爛漫で甘えたがりだが、 外では「良い子」を演じてしまう。

「あの……どこかでお会いしましたか？」 そう聞くと、店主は驚いた顔をしてから微笑んだ。 その顔がとても優しくて、ドキッと胸が高鳴ったのを覚えている。 今思えば一目惚れだ。 出会って数秒で私は恋に堕ちた。 貴方が鬼だとは知らずに。 これから先の運命に巻き込んで傷つけてしまうことも知らずに。 無責任な恋だけれど、私は、時間の許す限り貴方を愛していようと誓った。 鬼×人の決して許されることのない恋、 不思議で儚いダークラブファンタジー。